第32話 不気味です
貴族女性としてのマナーも付け焼き刃で、学力も魔力も突出したものはない、見た目だけの令嬢にどうして夢中になれるのか……。
リリアンヌからの手紙には、そんな疑問を持つ貴族令嬢も多くいて、ルチル嬢との関係が徐々にギスギスしてきたとも書いてあった。
令嬢達のなかには、自分の婚約者がヒロインに入れ込んでいる者もいるので、不満や鬱憤が溜まってきているのだとか。
だがそんな彼女の、おつむが弱くて頼りなげな風情が男の自尊心を煽り、ふわふわと愛らしい姿が庇護欲をそそるのかもしれない。
滅多にお目にかかれないような美少女に好意的に話しかけられ、頼りにされて甘えられたら、世間知らずの少年達はイチコロなのではないだろうか?
「そこのところ同じ男性として、フレデリック様はどう思われますの?」
「僕的はリリーひと筋なので特に何とも…… 思わないはずなんですが。実際に何度も対面することになっていたら、最終的にどうなるか分かりません」
「……自分の意思とは関係なく、シナリオの強制力に絡め取られるかもしれない、と?」
「ええ。不当に意識を操られそうで怖いですね。ヴィヴィアン嬢のおかげで、努力すれば決まった道筋を変えられる可能性がみえたとはいえ、初めから近づかないのが一番安全かな、と思ってます」
「そうですわね。シリル様からの手紙にも、 取り巻きができても彼らを引き連れて会いに来ているそうですから。攻略を完全に諦めているとは考えられないですしね」
しかし、そんなに侍らせていてもまだ足りないというのだろうか……どんだけ肉食系女子なんだ、ヒロインのルチル嬢って……。
「不気味ですけど……案外ゲーム感覚なのかもしれませんよ。落としていく過程が楽しいというか、夢に夢見ているというか?」
「あぁ、成る程。確かにそれはあり得そうですわね」
「でしょう? 攻略対象でなくても、王立学園にはイケメンが多いですから。こう、手近なところで恋愛スキルを磨いておいてから、本命に突撃する心づもりだとか……? ほら、影からの新しい情報にもあったじゃないですか」
「ああ、
ヒロインの独り言を正確に聞き取れたと、先程、最新報告が上がってきていたのだった。
『もうっ、何でフレデリック様が見つからないのぉ? 出会いイベントにはいたのに、その後は全然会えないしぃ。悪役令嬢もいないしっ、予定が狂っちゃうっ。いじめてくれなきゃ始まらないのにさぁ……おかげでシリル様も冷たいままだしっ。駄目じゃん!? はぁぁっ、二人ともかっこいいし手に入れたいのにな……』
とか何とか言っていたらしい……。
自分達の主人に対するあまりの不敬な内容に、フツフツと怒りを覚えた影達は、よりいっそう偵察に力を入れてくれているらしい。
「ね? ヒロインちゃん、僕達を攻略する気満々でしょ? やっぱり踏み台なんですよ、今の取り巻き連中って」
「……そのようですわね」
フレデリックの推察が正解な気がするヴィヴィアンであった…… とっても迷惑だけれど。
「嫌なスキルアップ方法ですわねぇ。皆様の……特に女性徒の反感を買いそうですわ」
「でもなんだか僕はちょっと、もっとその先が気になりますけどね。ここからどう彼女が巻き返すのか含めてですけれど……その手段というか」
「巻き返しの手段……ですか」
「ええ、もしかしたらシナリオの修正力で、何か強力な魅了魔法のようなものが彼女自身に備わるようになる……とかね」
色々な可能性のうちの一つだけれどあり得るかもしれないと、深刻そうに言った。
「……それも十分、考えられますわね。フレデリック様はともかく、学園にいらっしゃる主要な攻略対象者とは誰一人うまくいっていない状態ですもの。むしろ好感度はマイナスのような……そこからの巻き返しすためのチート能力ですか」
「はい。ここは、ヒロインちゃんに都合のよい世界のはずですから、いつ補正されてもおかしくないなって考えてます。彼女が努力して歓心を勝ち取らなくても何とかなるようにって」
「その分、
「そうなんですよ。こちらが先を見て対策を立てても、それに対抗して刻一刻と状況が変化しそうなんですよね。いく通りかに備えることも出てきそうですが、まず確実にやっておかなきゃいけないものがあります」
「まあ、それは何でしょうか?」
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