第33話 対抗手段
「状態異常対策ですよ」
「状態異常……と言うと、先程おっしゃっていた魅了魔法とかそう言うものですの?」
「はい、そうです。 魅了、洗脳、思考の誘導など……そういう系統の精神攻撃に対して、ジャミングできるものなんかを手に入れたいですよね」
「……確か簡易的なものなら、既にアミュレットとしてお店でも売っていますわよね?」
「ええ。ただ、相手が恋愛に関してはチートなヒロインちゃんですから。彼女限定で効果がない……なんて事もあるかもしれないでしょう?」
「そう、ですわね?」
想像したくないが大いにあり得る話で、最悪の事態を想定しておいた方がいいというフレデリックの考えには、ヴィヴィアンも賛成だった。
「勿論、既製品も参考になりますし購入はしますけど。いずれは自作できないかと考えているんです。ヒロインちゃんと違って、僕達は授業も真面目に受けてますし、仕組みがわかれば可能なんじゃないかなと。もし無理そうなら、家の専属錬金術師に要望を伝えて作って貰うという手もありますしね」
「いいですわねっ。もういっそのこと、両方ともやっておきません? 自ら制作出来たら素敵ですけれど、私達はまだ学び始めたばかりで時間がかかるかもしれませんし」
「そうですね。保険を掛けておいた方が安全ですね。そうしましょう。後は、僕達自身のレベル上げをしっかりしておくことですね」
「状態異常耐性をつけるためですわね?」
「ええ、そうです。たとえヒロインちゃんが魅了魔法を使ったとしても、パーソナルレベルが上であれば滅多にかかりませんからね」
なので、状態異常に耐性をつけるためにも、早くパーソナルレベルを上げたい。
「鍛える時間が必要ですから、コツコツ努力していくしかありませんけど……」
「こういう時には、ラノベの主人公のようなチート能力が欲しくなりますわねぇ」
「ええ。でも僕達には転生者特典のようなものはありませんし、出来ることから少しずつやっていくしかないです」
「……悪役令嬢なのに、何だか地味な作業ばかりですわ」
「はははっ、確かに! パパッと解決とか出来ないですもんね……いくら時間があっても足りなく感じちゃいます……」
「……こんなことならもう少し早く前世の記憶を思い出したかったですわ」
「ですよねぇ」
レベルが上がれば上がるほど、今のところ努力していないヒロインに対して有利になっていくはずなのが唯一、救いではある。今後彼女に、経験値倍増などのチートスキルが生えないことを祈るばかりだ。
「まあでも、ヴィヴィアン嬢が冒険者になって経験値を得ようと考えられたおかげで、少しずつでも前進していますから。予想以上に早く精霊とも契約出来ましたし」
「これも前世が庶民だった記憶のおかげと言えますわね。狙い通りの結果が出て嬉しく思っておりますわ」
普通の貴族令嬢なら、荒くれ者が多い庶民の仕事だという固定概念が邪魔をして、冒険者になることなど思いつきもしなかっただろう。
冒険者稼業を続けているうちに上がったレベルに比例して、体力や魔力、攻撃力や防御力、素早さ等の身体能力が、入学前よりずっとアップしたし、実戦で使う頻度が多いので魔法の腕も上達した。この世界に生きる貴族令嬢としては過分な強化と言える。
魔力は使うことで活性化され、内包する量が増えるので、このままコツコツ積み重ねていきたい。
目を見張るような変化はないものの、前世の記憶が戻ってからは特に、スムーズにレベルアップ出来ているので手応えを感じていた。
「魔法学の授業も楽しくてためになりますし」
「ええ、本当に。それに、学ぶうちに知識チートは無理そうだと分かったのも良かったです」
「ヒューシャ男爵令嬢の記憶は、いつから戻っていたのかは分かりませんが、ご実家は裕福な商家ですし無双されていた可能性もありましたものね」
「そうなんですよ。この世界にない画期的で便利なものを生み出していたら、殿下たち攻略対象も興味を惹かれたかもしれませんから」
日本の乙女ゲームをもとに作られた世界だからか、記憶が戻ってからもさほど違和感なく過ごせているのには、生活環境が似ていることが大きい。
科学の発達した国で生活していた訳だが、ここでは電力やガスの代わりが魔力になるので、生活家電に当たるものはほぼ全て魔道具で代用できているし、とっても快適だったのだ。それこそ、知識チートを発揮する場もないくらいに。
今世は貴族として暮らしている二人は直接見る機会はなかったが、冷蔵庫や洗濯機、掃除機に至るまで揃っているらしい。
ヒロインがこの方法で荒稼ぎしようとしても出来ないし、知識チートで攻略対象の興味を惹けないということが学ぶうちにはっきりと分かったのも良かった。
「とりあえず今は平和ですよね」
「まあ、放課後まではそうですわね……」
「……え、放課後? 何かありましたっけ?」
「シリル様からの召集がかかっていましたでしょ」
「あぁ、今日でしたか。大事なお話ということでしたね」
「はい」
ヴィヴィアン達が四人で集まる場合、一つ年上のシリルが主導することが多い。
今日も彼の呼びかけで冒険者ギルドの小会議室を借りて集まる予定である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます