第31話 ゲームの世界観



 ◇ ◇ ◇




 王立学園に入園してから乙女ゲームが開始されるというだけあって、シナリオでは主に学園生活に焦点が当てられていた。

 そのため、この国の成り立ちなどはフワッとした表面的な緩い設定だったらしい。



 ――しかし、ここは今のヴィヴィアンにとって現実世界なので、断罪回避のため、または回避が失敗し国外追放などになった時のことも考えて、必要な情報を整理し習得しておきたかった。


 彼女が転校した魔法学院では、主に魔法学を中心に学ぶことに変わりはないが、それでも一般教養を学ぶ機会はある。

 そこで、地理学や天文学、数学の他、大陸共通語、王国古語などいくつか取って、積極的に知識を吸収している。




 当たり前ことだがランドル王国にはゲームと違い建国以来の歴史があった。


 王を頂点とした封建社会で伝統と格式を重んじる貴族達は、華やかで優雅な見た目とは裏腹に、陰湿な嫌がらせや蹴落とし合いなどが日常茶飯時だった。


 しかし、楽しくプレイするには、そんなドロドロした現実的な描写は邪魔になるだけだ。


 メインは高スペックイケメンとの恋愛を楽しむ事なので、甘くて楽しくおいしい思いが出来るところだけを切り取って、世界観はフワッと作っている。なので、こうした負の部分は詳しく出てこなかったはずだ。




 前世で乙女ゲームを楽しんでプレーしていたと思われるヒロインは、この世界ではシナリオ通り庶民として生まれ成長している。

 貴族令嬢として引き取られてから王立学園の入園まで時間もなかっただろうし、こうした事情を知ろうとしたり、真剣に取り組んで知識を身につけているとは思えなかった。


 何故なら、貴族社会を舐めてるとしか思えない言動で悪目立ちしているからだ。


 フレデリックと協力体制を取ってから、彼女を見張らせている彼の影から入る情報にはヴィヴィアンも目を通しているから、学園で浮いてしまっている様子がよく分かった。




 仮想の世界でたくさんの友達に囲まれ、可愛い制服に身を包んでワイワイと楽しく過ごす学生生活。

 ゲームの中のヒロインは、明るくひたむきな性格で男女共に人気があるという設定だった。


 何事にも真摯に取り組む姿勢が、次第に高位貴族である攻略対象者達の心まで掴んでいき恋に落ちるのだが、現在ヒロイン枠にいるヒューシャ男爵令嬢は、学ぶことが嫌いらしく、その道筋を辿っていない。


 入学当初から可愛らしく微笑むだけで次々とフラグを立てていく設定ではあるのだが、それもヒロイン自身の努力で学力や魔力、各種能力値やパーソナルレベルを上げてこそである。


 それに、女生徒たちからの好感がなければ、攻略対象者の情報を教えてくれる予定の女性キャラとも上手くいかないし、同性の友人との友情を攻略対象者が見守るイベントなども起こせないだろう。今のように、男性だけの好感値をあげてもダメなはず。


 男性が守ってあげたくなるようなタイプのヒロインは、見た目だけなら完璧な女の子で、生かすも殺すもヒューシャ男爵令嬢次第だというのに……。


 それでもヒロイン補正は強力なのか、色々と残念な仕様の彼女にも、最近になって取り巻きが出来たのだという……。




 ――主要な攻略対象といえば、クリストファー・ランドル第二王子殿下と、王弟の長男であるハロルド・バイロン公爵令息。

 シリル・レジーナ侯爵令息とフレデリック・サクス伯爵令息、ロイド・リーン子爵令息の五名で、タイプは異なるももの美形揃いで高スペックのキラキラしいメンバーである。




 彼らの攻略は案外難しい……と思ったのかどうかは不明だけど彼女が今、侍らせているのは彼らではない。


 イケメンとなれば、身分の上下を問わず手当たり次第に声を掛け、何人かの大商人や下位貴族の令息を堕として取り巻きを作るのに成功したようなのだ。



 主要キャラ以外の男性とのイベントはほとんど無かったはずなので何をしたのかは不明だが、こぞってヒロインに入れあげているらしい。

 ここ最近では、彼女に愛を囁く集団を嫌でも目撃するのだとリリアンヌからの手紙にあった。

 庶出の男爵令嬢が繰り広げる非常識な桃色空間に、学園が侵食されたようで見るに耐えないと。



 ――主要な五人の高位貴族を攻略するには、ヒロインにも成長を求められる。それが出来なくて、一旦、攻略を中断しているのだろうか?

 恋愛に関してはチート級なのだから、お相手のスペックにこだわらなければいくらでも引っかけられそうだけど……。



 攻略キャラ以外を取り巻きにして侍らせているということは、もう顔と金さえあればなんでもよくなっているのか?





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