第22話 未来の宰相様には勝てません
女子二人で寮生活についての話で盛り上がっていると、低い声に遮られた。
「……楽しそうですね」
「シ、シリル様」
「……私の知らないことが、色々と進んでいそうですね?」
そう言って眼鏡越しにじっと見つめられる。表情も口調も淡々として変わらないが、とっても機嫌が悪そうなのが伝わってきます。
フレデリック様とリリアンヌ様が作り出した、甘々で熱い空気で満載だった空間が、シリル様によって急速冷凍された気分ですわ! さ、 寒いです~!
「べ、 別にシリル様に隠し事をしているわけではなくってよ!?」
「……そう?」
「は、はい」
またまたジーッと見つめられて、ちょっぴり後ろ暗いところのあるヴィヴィアンはヒヤリとする。
ドキドキしながら返事を待っていると……。
「ふ~ん……よし、決めた。私も魔法学院に転校する」
「「「ええええええぇぇっ!?」」」
嘘でしょ!? 何でそんな結論になるんですか、シリル様! 一番望んでいないことを言われてしまいました……。
「そ、それはいけませんわ!」
攻略対象である貴方には、王立学園にいていただきませんとっ。フレデリック様に続いて貴方様まで来られてしまっては、
「……ほう、何故だい?」
「次期侯爵家当主で次期宰相候補でもある貴方は、学園にいることが必要でしょう?」
本当は攻略対象が二人もいたら、ヒロインさんが来てしまう確率が上がってしまうからですけれども。
でも、今後の為に幼少期からの貴族社会の人脈作りが欠かせ無いのも本当ですから、嘘は言っていませんわ。
「ふ~ん。一応は私の事も考えてくれていたのですね」
「あ、当たり前ですわ。婚約者ですもの」
「じゃあ、婚約者の私が貴女の近くにいたいといったら……反対しますか? フレデリックは、婚約者のリリアンヌ嬢が転校することに反対しなかったけど?」
そんな言い方はずるいですわ。 これでは明確な理由を話さない限り、ここでやんわりとお断りするのが難しくなってしまったではありませんか。
……仕方がありません。ここは少しずつお断りする方向に誘導してみましょう……。
「そ、そんなこと……ない……ですわよ? ただ、あの……」
「そう? 良かった。 じゃあ決まりだね。よろしく」
「え?」
ああああああぁぁぁっ、どうしましょう。
被せぎみに、そ、即決されてしまいましたわ!?
策を巡らす前に、王手をかけられて詰んでしまいましたわ。
未来の宰相様にはいつも勝てませんけれど、今回ばかりは私の命がかかっていますのよ。何とかしませんと……。
「……到着したみたいだね」
ヴィヴィアンがひとり焦っているうちに馬車が止まり、スライム討伐の現場に到着してしまったようだ。
シリルもさっさと降りて行き、続きを話す気はなさそうである。
こうなっては仕方がない、まずは依頼をこなそう。そして機会を見て、もう一度話を聞いてもらわなければ……。
そうやってヴィヴィアンが決意を固めている間に、四人はシリルの指示によって、それぞれのメイドや執事を連れ別々に行動することに決まったらしい。
効率的な経験値稼ぎをして、パーソナルレベルをあげるには、固まって討伐するよりその方がいいとのこと。
ちなみに彼ら直属の従者たちは全員、ずっと前から冒険者登録をしている。実力もかなりのものだ。
仕える家のためにも冒険者というのは都合のいい身分で、街の情報を集めたりするのに使っていたんだとか。
勿論、護衛としてパーソナルレベルを上げる目的もあり、ギルドランクはCかDになっていた。
実力的にはB以上だそうだが、ランクが上がりすぎるのもマズいらしい。
何故なら、BからSSS級までの上位五階級の冒険者になると、指名依頼や強制依頼を受けなくてはいけないからだ。
貴族家の従者としては、ランクアップすると実力者として変に目をつけられるし、面倒なことになるのでしていないのだという。
「成る程、それぞれの従者を使ってパワーレベリングをするのですね」
初心者が固まって四人で動くより、彼らもずっと守りやすいだろうし、安全に討伐出来るだろう。
「そういうことだ。スライムから入る経験値は少ないだろうけど、私達は全員、初の魔物討伐だ。数をこなせば案外、いい線をいくのではないかと思う」
「やっておいて損はないですね。分かりました、じゃあ、二時間後にここへ再集合するというのでいいですか?」
「ああ。君たちは門限もあるし、それぐらいでいいだろう。では皆、 健闘を祈る。解散」
「「「はい!」」」
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