第21話 素直じゃないけど可愛い人



 入園してから一ヶ月と少しの今はこれ以上の情報は出ないようなので、ヒューシャ男爵令嬢のことはまた教えてもらう約束をしていると、今度はリリアンヌの方から例の件の進捗状況を確認された。


「それで魔法学院への編入手続きの方法ですが、何か分かりまして?」


「ああ、その件でしたら少し分かりましたよ、リリー」


 なんでも無いことのように、フレデリックが答える。凄い、いつの間に調べたんだろう。


「まあ、ありがとうございます。それで?」


「うん。どうやら精霊契約をした者には許されているらしいですね」


「精霊契約……ですか」


「はい。 ただですね、契約だけでいいのか、それとも精霊の加護も必要なのか……あるいは守護精霊などの力ある精霊との契約が必要なのかの詳細が不明でして……全て判明してからお知らせしようと思ったのですが……」


「いいえ、フレデリック様。そこまでお調べいただければ十分でしてよ。つまり、確実なのは最後におっしゃった、守護精霊と契約して加護をいただくこと……なのでしょう?」


「ええ。確かにそれなら間違いないかと」


「では、そうするまでですわっ。それで、精霊契約のための条件の方は何か分かりまして?」


「う~ん……精霊は気まぐれで個体ごとに好みもあるようなのです。はっきりとした条件を提示するのは難しいんですよね」


「運任せ……の要素があると?」



「まあね。でも、少し糸口があるんです。僕たちが学院で精霊学の授業を受けていることは手紙でお伝えしましたでしょう? 精霊学を継続して学ぶための条件として提示されたものにヒントがありまして……それが契約に必要なのではないかと考えています」


「まあっ、何ですの?」


 自分がその条件に必要なものを持っていればいいがと、少し心配そうにリリアンヌが聞いた。


「大丈夫、ご自身で鍛えられるものですよ。魔力総量の多さとパーソナルレベルの高さですが……どうですか?」


「ええ、魔力量の方は五歳時から毎日訓練していますわ。家庭教師の先生にも順調に魔力は増えていると言っていただいてますの」




 一般的に魔力総量を増やすには、心身共に丈夫で健康な方がいいと言われている。


 十五歳で成人するまでが一番、増えやすいので、貴族の子女は幼いうちから鍛え始める。


 ただし、魔法を扱うには精神の安定も必要なので、リリアンヌのように大体五歳くらいから練習し始めるのが良いとされているので、その頃に専門の教師に雇い、無理のない範囲で体力も鍛えながら、少しずつ増やしていくことを推奨されている。


 貴族の家には大体魔法を練習できる専門の鍛練室があるので、そこで限界まで魔力を使い切って、体内に内包する量を増やしていくのだ。




「良かった。僕達もそうなんだ。ただ、魔物討伐はしたことがなくてね、パーソナルレベルが低い」


わたくしもですわ。でも、今からレベル上げを頑張ります! 鍛えれば鍛えるほど早く、その ……転校できる可能性が上がりますしっ」


「うん、一緒に頑張ろうね。リリーが来てくれたら、僕も嬉しいです」


「フレデリック様……」


「リリー」


 すっかり二人の世界入って、幸せオーラを可視化できそうなくらい、甘い雰囲気が馬車の中いっぱいに広がった。

 同乗していたヴィヴィアンは、逃げ場のないこの狭い空間で、居心地の悪さにお尻がムズムズしてしまう。




 しかしここに、そんな事には全く頓着しないという方がいらっしゃって、甘々な雰囲気をスパッとぶっ壊してくださった。


「……ちょっと待って。リリアンヌ嬢は王立学園からの転校を考えているのかい?」


「ええ、シリル様。そうなんですの」


「何故、そんな話に?」


「フレデリック様のいない学園に通っても仕方がありませんもの。そ、それに、ヴィヴィアン様もいらっしゃいませんし、退屈でしたの!」


「まあ、リリアンヌ様。わたくしもご一緒出来れば嬉しいですわ。王立学園と違い、魔法学院は全寮制ですもの、きっと楽しいですわね!」


「え、ええ。まあそれは……べ、別に凄く楽しみにしているというわけではありませんが、少しは楽しみにしておきますわ!」


「ふふふっ、リリアンヌ様ったら」


 リリアンヌは素直じゃないが、フレデリックに加えて幼馴染みで友人ヴィヴィアンまで、詳しい事情を話さずに魔法学院へ行ってしまったことが余程寂しかったようで、今日は素直だ。





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