3
吸血鬼――夜の王。恐怖の支配者。
そんな肩書も今は昔。
科学技術の発展は、いつしか怪異の超常性すら上回ってしまった。
吸血鬼の毒性となりうる人口血液――“
鉄血衆の活躍により状況は一転。
それまで世界を裏側から支配し続けてきた吸血鬼たちは、搾取する側から狩られる側に転落し――鉄血衆の発足から一年を待たずして絶滅した。
ただ一人、例外として生き残った吸血鬼がいる。
それが彼女だった。
シュターレント=フォン・オレンジドレス。
そんな大仰な名前を持つ吸血鬼だが、僕は「彼女」とだけ呼んでいる。
「べつに、私が特別だという話ではないんですよ。ただ、死ぬ気が無かったから生き延びただけ。ほかの吸血鬼が、むざむざと死んでいったのは――」
みんなどこか飽きていたからでしょうね。
生きるのに。
栄枯盛衰も彼女に言わせれば、そういうことらしい。
飽きたから死ぬ、という発想が僕には分からないが、何千年も生きていればそういう風になるのだろうか。命の使い方が雑な種族だと思う。
彼女はいま、鉄血衆の後継団体である、国家
吸血鬼という特異な存在を解析・研究し、人類繁栄の礎にする。それが国の方針らしい。自分たちの都合で滅ぼしておいて勝手なものだと思う。
そんな横暴にも特に抵抗せず、彼女は身柄の拘束を了承したという。
ただ一つ条件として、
「私が血を吸う人くらい、自分で選ばせてほしいものですね」
そこで白羽の矢が立ったのが、僕だった。なんの因果か彼女に見出された僕は、衣食住の保証と引き換えに、彼女と同様、身柄を拘束されて今に至る。
そういう理由で、僕の部屋には扉がないのだろう。合理的だと思う。なんせ、僕はこの部屋を出る必要などどこにもないからだ。
僕の過ごしている空間は、ほぼ密室といって差し支えなかった。
日光の差す窓こそあるものの、先が歪んで見えるほど分厚いガラスは、人間の力でどうこうできる代物ではない。
食事や着替えといった必需品は、部屋の隅にある小型エレベータ(ダムウェータというらしい)から運ばれてくるが、決して人間が乗れるような大きさではない。
しかし、不自由だと感じたことは一度もない。トイレや風呂は個室だし、洗面所やベッドの使い心地もそれなりにいい。
外の世界に戻りたいという気持ちは湧かなかった。元々やりたいことより、やりたくないことの方が多い気質だ。
それに、彼女の話を聞いていると退屈しない。
こういう穏やかな日々は、僕の望むところだった。
何の生産性もない日々だったが、それでよかった。
誰かに必要とされている。
それだけで十分だった。
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