4
いつも同じ部屋で、同じように過ごす日々。
退屈を覚えないと言ったら嘘になる。
しかしその退屈すら、彼女と共有できているなら嬉しいと思う――そういう自分を自覚したのはいつからだろう? はっきり思い出せない。最初からそうだった気もするし、つい最近のような気もする――そんなことを考えていた時だった。
「あなたは恋をしたことがありますか?」
「こ……何?」
「恋ですよ恋。人間がよくやっているやつです。あなたも、ここ来る前はそんな経験をしたことがあるんじゃないですか?」
彼女は意地悪っぽいを笑みを浮かべていた。からかっている――だけではないらしい。頬の吊り上がった角度を見ればわかる。
今日は純粋に僕の話を聞きたがっているようだ。
珍しいこともある。
しかし、残念ながら期待には応えられない。
「そんな器用な人間に見えるか?」
「器用かどうかともかく、辛気臭い人だなぁとはいつも思ってますよ」
「そういうことだよ」
「ふーん。まぁ初めて会ったときも、私を風俗嬢かなにかと勘違いしていたくらいですからね。女性との交際経験が無いのも納得です」
「昔の話をすると老けて見えるぞ」
「老けるもなにも、こちとら……何歳でしたっけ? まぁどうでもいいですね」
不老不死である彼女には年齢なんて些末な問題のようだった。実際に美しさを保てているから些事なのだろう。
ふと僕は、彼女にもそういう話があるのだろうか、と邪推した。
吸血鬼同士の恋愛――字面にするとなんだかロマンチックな響きがするけれど、同じ相手を何百年も想い続けるというのは、どういう感情なのだろう。
美しい恋――というよりは、悲惨な恋で終わりそうだけど。
辛気臭い僕には、その程度の想像しかできない。
そう思っていると、彼女の方から口火を切ってきた。
「私はありますよ。人を好きになったこと」
ちょうどその時、窓から光が差した。夕暮れ前の、黄昏色の光だった。
彼女の凪いだ表情と、山吹色の髪によく似あう色だと思った。
正直、どう話を切り出すべきか迷ったが、結局は自分の気持ちに正直になることを決めた。
「その話は、もう少し詳しく聞いてもいいのか?」
「どうでしょうねぇ」
自分から降ってきた話題なのに、そんな風に勿体ぶる。
「今日はやめておきましょう。時間はいくらでもあるんですし。それに――」
今日はこんなに黄昏が綺麗です、と。
彼女はぼんやりと窓の向こう側に視線を向けた。
僕は小さく息を吐いて、そのまま横顔を眺めた。彼女も何かを喋ろうとはしなかった。二人で窓から差し込んでくる光をぼんやりと眺めていた。
どれだけ時間が経っても、続きを促す気にはなれなかった。
僕は怖かったのだと思う。
どうしてか、分からないけれど。
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