五、覚悟
「お見事ですズィルバー! さすがは僕の伴侶になる男!!」
はしゃいだアントーニョ殿下は、またしても余計なことを言う。
勘弁してくれ。そもそも、出会ったのだって数刻前だぞ。
「伴侶!? ど、どどどとどういうことですか!?」
アリーは飛び散った血に青ざめたまま、ガタガタと震えている。
「……殿下が勝手に言ってることだ。俺にその気はない」
「その気はないけど、考えてはくれるんですよね!」
随分ませているとはいえ、アントーニョ殿下はまだ十を過ぎたくらいの少女だ。いくらなんでも早すぎる。
澄んだ琥珀の瞳が、痛いほど純粋に俺を見てくるが……どうにもやりづらい。
「…………おい、どうすりゃいい」
「さぁ?」
ジャックに尋ねるが、奴は肩をすくめるだけだった。
「な、何となく事情は分かりました。殿下は確かに、その、
もごもごと言いつつ、アリーはさっきの地図を開く。二つあった大きな点は、今や一つだけだ。
「これが、ズィルバー殿の魔力反応ですかねぇ」
「だだ漏れではないですか! 僕だって抑えられるのに……これではすぐ見つかって当然です!」
アントーニョ殿下がキャンキャンと子犬のように吠える。
ほへぇー、と間の抜けた声を上げ、ジャックは地図と俺を見比べた。
「抑え方は知りません。魔力がどうとか、感じ方すら知らない野郎どもに囲まれてたんで」
俺がそう告げると、アントーニョ殿下は「なるほど」と頷き大人しくなった。
親父は
魂の力……魔力が引き出せたのも、さっき「前世」を思い出したのがでかいだろうしな。
「どうも、感じ方すら知らねぇ野郎の一人でーす」
おどけるジャックをしり目に、アリーは顎に手を当て、考え込む。
「うむむぅ、魔術に手を出した貴族ならば基礎ではありますが、没落貴族でしたか……ならば後ほど私が手解きするとして……今はそうですねぇ……
言うやいなや、アリーの手から白い光が溢れ、俺の全身を包み込んだ。
「これでしばらくは大丈夫かと……」
「礼を言う」
「なんの! 巻き込んだのは我々です。行きずりだというのに、まさか協力してくださるとは……」
この島には商売がてら立ち寄ったに過ぎない。……が、追われる身の二人を見て、「放っておけない」と感じた。
──海の底にも都はございまする
……今思えば、幼くして海に沈んだ哀れな甥っ子の影を見たんだろう。性別は違ったが、
「これで魔力を隠せたってことか……。……ち、違いがわからねぇ……」
ジャックは目を白黒させ、何やら考え込んでいた。
「別にわからなくていい。……さっさと案内するぞ」
……が、俺が背中を叩くと、「へいっ」と飛び上がる。
「港の方に船がある。それを使って落ち延びるか」
「あのぉ……本当に、よろしいので?」
「くどい。もともと危険な仕事だ、覚悟のない奴は船に乗せてない」
「そ、そうですかぁ……」
アリーはまだ尻込みしていたが、アントーニョ殿下の方を見、意を決したように歩き出した。
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