四、魔術使い
「よォ、アリー。どうした」
俺が声をかけると、アントーニョ殿下の世話役……アリーはがばと顔を上げ、いそいそと古びた羊皮紙を取り出した。乱れた亜麻色のくせ毛をかき分け、覗き込む。
俺たちはまだ出会ったばかりだが、アリーが特殊な「魔術」の使い手だとは聞いている。なんでも、近くの空間から読み取った情報を文字や絵にして浮かび上がらせる技らしく、便利なモンを持っているなと感心したのを覚えている。
「じ、実はですねぇ! この辺りに強大な魔力反応が出てるんですぅう! しかも二つ!」
「ほー、地図にもなんのか。便利だなぁ」
ジャックは呑気に眺めるが、「ん?」と顔をしかめる。
「んんー? この点が魔力反応? すぐそこじゃねぇか」
ジャックがキョロキョロと辺りを見回す。……その時だった。
派手な水音を立て、背後の泉がぱっかりと割れた。
「この……
どうやら、吹っ飛ばした金髪はまだ生きていたらしい。しぶとい野郎だ。
かつて俺の動きを止めた
「先程は遅れをとったが、私はかのパラケルススから教えを受けた魔術騎士だ……ッ、貴族でもないきさまに負けるものか……!!」
パラケルスス。確か、魔術を実用的な代物に変えた研究者……だったか。もう100を越したジジイで不老不死って噂だが、どうだかな。
今や理屈を知れば誰でも使えるのが魔術だが、その知識を得られる人間は限られている。……この世界でも、「家」によって決まることはあまりに多い。
「焼け焦げて死ねぇっ!!」
雷が俺の方に飛んでくる。
……が、手前で
「な、なに!? このエネルギー……ま、まさか……!」
「貴族でもない、か……皮肉なモンだ」
魔術の心得はない。……だが、「魔力」っつーモンが心……ひいては魂の強さに起因することぐらいは知っている。
四元素だとかエーテルだとか細かい理屈は知らないが、とにかく捏ねくり回してぶつけりゃいいってことはわかる。……ズィルバーは、その程度の「家」には生まれていた。
「ハッ……貴族でなく、
空間がぐにゃりと歪む。
そのまま騎士の顔面に叩き込み、ねじ切った。
胴体から離れた首が、岸辺に転がる。
「……み、見事……。きさま……ただの平民ではあるまい……」
耳や鼻から血を垂れ流し、それでも、首は喋った。
「……なぁに、没落貴族の出ってだけだ。かのハプスブルク家に連なる血らしいが……今は、ただの貿易商だよ」
「そう、か……。……ならば、こうなるのも……運命……か……」
金髪の騎士は目を閉じ、そのまま喋らなくなる。
やがて、泉に沈んだ胴体を追うように、首から上も水底へと沈んで行った。
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