一、今世の名
頭からだらだら血が出てる気もするが、まあどうってことはない。前が見えなくなる前に殴り倒せばそれで終いだ。
きんきら頭が吹っ飛んだ先で派手な水柱を立てる。どうやら泉があるらしい。
「……あ?」
奴さんは浮かんでこない。
ひとまず顔を洗って、水面に写った姿に気づく。
さっきのきんきら髪と同じような白い肌に、銀に輝く長い髪。夕闇迫る空に似た、紫の瞳……。
「……! そこにいたのか!」
声に振り返ると、「俺の仲間」がそこにいた。
……記憶が蘇っていく。
俺は……今世での俺の名は、
「……ズィルバー、どうした? 頭でも打っておかしくなったか?」
「いいや、なんでも。……ところで、アリーは?」
ズィルバー・エーベネ。仕事は船乗り。
王子の亡命を手助けする途中……だったか。
その国ではかつて大臣の一人が栄華を誇り、自分の娘を王族に嫁がせた。その王子が王位継承権を得たことでさらに強大な権威を手にしたが、不遜な振る舞いが騎士連中からの反感を買ったと……
笑えるくらい、どっかで聞いたことのある話だ。
「王子を着替えさせてる。……ったく、やっぱり高貴な方ってのは違うね。世話役にしか肌を見せたくねぇってか」
うねった黒髪からひらひらと木の葉が落ちる。……追っ手に捕まりかけた俺を必死で探していたらしい。
「ジャック、追っ手がいたってことは王子ものんびりお着替えなんかしてる場合じゃない」
「……へいへい。ったく、とんだ厄介事に巻き込まれちまったぜ」
護衛のジャックは憎まれ口を叩きながら、クルクルと短剣を回した。
「ま、幼馴染兼雇い主の頼みじゃ仕方ねぇわな。俺は昔からわかってたぜ。お前はいつかどえらいことを……」
「お喋りはそこまでだ。……来たぞ」
ジャックから短剣を奪い取ると、「えっ」と間抜けな声が上がる。
さっきのきんきら髪……金髪の仲間だろう騎士達が金属の足音を立てて走ってくる。
「……! あいつら、魔弾を使うのか……!」
「……ハッ。あんなもの、
……誰? という呆けた声がするが、手で制して黙らせた。
相手の手のひらでふよふよと浮いた火の玉が、こっちの体温を察知する。
だが、魔術詠唱の暇もなく、敵の眉間には短剣が突き刺さっていた。
「……うーん……お見事!」
「武器は1本だけか?」
「あと2本あるけど、相手も2人いる。逃げた方が……」
「分かった。全員殺して全部持ち帰る」
「魔弾は上手いこと避けろ。突っ込むぞ」
「……今日、いつにも増して大胆じゃない……?」
「
「え、なんて?」
だが、今世はまだまだ退屈しなさそうだ。
「……いざ、尋常に勝負!!」
間合いに突っ込めば、飛び道具は狙いを定めにくい。
……さぁ、お手並み拝見と行こうか。
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