異界転生千本桜

譚月遊生季

第一章 物語は地中海の小島にて始まる

序幕

「まず、あなたの転生に時間がかかったことをお詫びします」


 闇の中で、そんな声を聞いた。

 意識はゆらゆらと波間を漂うようで、肉体の感覚は既にない。


「あなたの更なる活躍を望む声を聞き届けました。あなたもまた、死してなお必要とされる魂なのです」


 へぇ、俺のねぇ。

 俺「も」ってことは、他にもそういうやつらがいるってわけだ。


「……ですので、その魂が存分に輝く場所にご案内します」


 おいおい、だが俺はそんなこと望んじゃいない。

 言ったはずだ。


「当たり前のものは全て見た……と?」


 ああ、それで……だ。そこには何がある?

 戦か?

 汚い権力争いか?

 野蛮な武士もののふどもか?

 それとも腐った公卿くぎょうどもか?


「それは、あなたの目でお確かめください。けれど、これだけは伝えておきましょう」


 あなたが見てきたものとは、異なる世界が広がっている……と、声だけの何かは語った。

 そのまま、俺の意識は確かに肉体を形作っていく。手、足、首、心臓、胴体……

 やがてまばゆい光が、俺のまぶたを突き刺した。


 


「おい、大丈夫か?」


 聞き慣れない声がする。


「よかった。てっきり死んじまったかと……」


 きんきらに光った髪の男が俺を見下ろしている。

 肌はやけに白く、玉虫色の目がぎょろりとして鼻が妙に高い。


「生きててよかった」


 ほっとした様子で、奴は俺に手をかざした。

 びり、と、体に雷が走る。知覚したばかりの肉体の動きが奪われていく。


「お前には聞きたいことが山ほどある。死なせるわけにはいかない」


 俺を後ろ手に縛った縄が緩み、解けかけているのがわかる。

 ああ、敵方てきがたか。

 ためらわず頭突きをすると、きんきら髪は不意を突かれて後ろに転んだ。


「……やあやあ我こそはァ」


 歩み寄ると、なぜかきんきら髪はひぃと情けない声を上げた。


平清盛たいらのきよもりが四男、新中納言しんちゅうなごん知盛とももりなりィ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る