第3話 今日からニューゲーム 其三

 「――なぁ、スーやん。ゴールデンウイーク中に一体何があったんや?」


 時間は過ぎて、昼休み。地獄の様な3限目を終えた俺は、あまりのストレスで4限目を放心状態で流し、ようやく束の間の休息を手に入れるに至った。

 俺が昨日のおかずの残りをそのままぶち込んだどんぶり飯を口いっぱいに掻きこんでいると、前の席の舞元蹴児まいもとしゅうじ(通称マイケル)が興味深そうに話しかけてきた。ちなみに『スーやん』とは俺の渾名である。最もこいつしか呼んでいないが。


 一体何があった……だと!? そんなもん一言で言い表せれるかって言いたいところだが、他言したら即デッドエンドなんだから言えるわけないんだよな。ここは無難に学園デビューってことにしておくか。


「ええと、これはだな――」


 俺が話を切り出そうとすると、マイケルは捲し立てるように早口で喋った。


「学園デビューにしてはめちゃくそ奇抜やし、何か他の目的でもあるんやろ?例えば、怪しい儀式を行う時の正髪とかなぁ。なぁ、もったいぶらずに教えてくれやぁ!ボクとキミとの仲やんかぁ」


 なんだコイツ!すげー興味津々じゃん。後ナチュラルに煽るのやめてもらっていいですか。

 若干イラつきながら、マイケルの目を見る。……うわぁ少年の様にキラキラしてやがるぜぇ。え?何、本気で言ってんの?それはそれで正気を疑うけどな。


「――その話、オレ達にも聞かせてくんない?」


 俺がマイケルの対応に難色を示していると、斜め前付近から声を掛けられた。今度は誰だよ。

 面倒くさそうに声の主の方向に目を向けると、やたら賑やかしい集団が飛び込んできた。赤茶髪の優男を中心に派手目な女子達が談笑している。それを見て、俺は心底ゲンナリした。何故かって?そりゃあこの後の展開が容易に想像が付くからだよ。


 「その髪さぁ、『ボー〇ボ』に似てるよね。もしかしてリスペクトしてんの?」

 「ねぇ、なんかギャグやってみてよ」 

 「アハハ!ウケる。頭とか開いたりするんじゃね?」


 ほらきた。陽キャ名物、陰キャいじり。本人たちに悪気がないのがまた質が悪い。いつもの俺なら塩対応間違いなしなのだが、俺は今『主人公』の責務を背負ってる。生半可な答えじゃこの先死は免れない。とはいえ、これだけは言わせてくれ。


 ――亀ラップしか知らねぇし俺。むしろなんで『ボー〇ボ』知ってんのよ。全然世代じゃなくない?しゃぁねぇ、もうこれでいくしかないよな


 「――メケメケメケメケメケ~みょーんみょーん」


 精一杯の顔芸と、腹の底から振り絞っただみ声をぶつけてやった。不思議だ。全力で取り組むと、こんなふざけたことですら誇らしく感じる。ああ俺はよく――


 「は、何言ってんのおまえ?」

 「おまえ頭おかしいんじゃねぇの?」

 「きっしょ。せめて『オ〇リス』とか出せよ」


  

 俺が感慨に浸ろうとしていると、目の前からマグナム弾が如く罵詈雑言が飛んできた。うん知ってた。まぁ、そうなるよねぇ!でも流石に辛辣ゥ。後、普通の人は頭から『オ〇リス』なんて出せません。というかなんでそんなこと知ってんだよ。見かけによらず読んでるのかよ。このギャル、素直に驚きだわ。

 

 俺が感情の乱動を制御しきれずにただただ押し黙っていると、当の赤茶髪の優男——神楽坂康介かぐらざかこうすけは口端を釣り上げるように歪めると、決して笑っていない目を向けながら俺の肩をポンと叩き、言った。


 「あのさぁ、周藤。何があったか知らないけど、あんまりクラスで悪目立ちすんの止めてくんないかな?お前そんなキャラじゃないだろ」


 「さぁ、なんのことを言っているか分からんなぁ」


 俺がわざとらしく呆けると、神楽坂は肩に置いた手に力を込めて、俺にだけ聞こえるように言った。


 「――目障りだっていってるんだよ。分かれよカス」


 それだけ言うと、神楽坂は仲間の輪に戻って行った。おー怖。でも俺はそんなものとは比べ物にならない恐怖を現在進行形で味わっているからノーダメだぜ。


 そんなこんなで昼休みは過ぎていった。

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