第2話 今日からニューゲーム 其二

 「――さて、周藤君。ここに連れてこられた理由は分かるかな?」


  頭部を襲うスーパーボルケイノ級の激痛に絶叫し、保健室にて目を覚ましてから早2時間。俺はというと、何故か生徒指導室に連行されていた。

いや、ほんとなんでだろうね。身に覚えがないなぁ(すっとぼけ )

……とりあえず、主人公っぽく返しておくか。


「もしかして、俺またなんかやっちゃいました?」


「ほーむ、あくまで白を切りますか。じゃあしょうがないですね。――何か言い残すことはないか、クソジャリ」



  俺が肩を竦めてお道化た顔をしていると、さっきまで可愛らしく俺の顔をまじまじと見つめていた妙齢の女性――鬼ヶ埼先生がカナリヤの様な声でドスが聞いた発言をしながら、何処から持ってきたのか、その小柄な体格からは想像できないほどドデカい木刀を俺の喉元に突き立てた。あっはっは。――やばいなーこれ。


「――申し訳ありませんでした!悪気はないんですぅ。偶然だったんですぅ。だってまさか目の前に女の子いるなんて普通思わないじゃないですか。不可抗力ですよ、不可抗力。揉みたくて揉んだんじゃないんですよ、こちとらぁ!」


 俺が全身の汗腺がぶっ壊れる勢いで冷や汗を放出させながら、今朝の事件の顛末について力説という名の逆ギレをかましていくと、生徒たちから『アマテラス』と揶揄される基本ニコニコ顔の鬼ヶ埼先生が何やら困惑した表情を浮かべ始めた。

 あれ、なんか噛み合ってなくね?

  もしかして、おれほんとになんかやっちゃいました?と心中で自問自答していると


「コホン。周藤君、今の話詳しく聞かせてもらえるかな?もちろん貴様に拒否権はない」


関節をポキポキと鳴らし始める先生の姿がそこには……あった。

詐欺だよう。なんであんな可憐な見た目から、大魔王みたいなオーラ吹き出してんの?そりゃぁ、校内ギャップランキング・ベスト3にランクインするわけだよ。でもこれで3位っていうんだから末恐ろしいね、この学校は。


 そんな、俺の現実逃避にも近い独白も虚しく、先生は狂喜に満ちたような顔でにじり寄ってきて――俺は全てをぶちまけた。


そして……


この後、めちゃくちゃ絞られた。(もちろん暴力的な意味で)





 *** *** ***





 さて、鬼ヶ埼先生との指導という名の暴力を耐え切った俺はというと、某戦闘民族の王子の如く逆立った頭髪を水道水で濡らして程よく寝かせた後、気づけば我が学び舎である1-Aの教室の前にいた。さっきまでツンツンだった頭髪は、流石に水で濡らした程度じゃ完全には修正出来ず、右往左往に散らかり、見事なまでの鳥の巣ヘアーを形成していた。金髪と相まってこれじゃまるで雷様である。正直いってダサい。


 だが、そんなことは気にしていられない。実質2時間強も授業をサボっているんだ。このままでは、悪目立ちするいっぽうだ。――いや、待てよ。むしろ『主人公』としては美味しい状況なのでは? どんな状態であれ俺の存在が認知されることには変わりはない。大いに不服ではあるが、甘んじて受け入れよう。背に腹は変えられんとはこのことだ。


 そんなことを考えながら、引き戸を開ける。数学の大伊勢教諭がチョークを片手に俺の方を振り返る。釣られて他のクラスメートも俺を見つめてくる。

 ――やってしまった。そうそう普通に考えたらまだ授業中だよな。くそぅ何か休み時間的なノリで入ってしまったじゃねぇか。は、恥ずかしすぎる!


 視線という名の光線銃で滅多撃ちにされた俺は、羞恥という名の銃創を庇うように両手で目元を覆った。そして、生まれたばかりの小鹿の様な足さばきで自分の席まで歩くことを余儀なくされた。悲しいことに登校3時間目にして俺のメンタル係数は早くも0パーセントを迎えようとしている。ああもうお家に帰りたい。


 

 この後、追い打ちをかけるが如く、俺を苦行に叩き落す事件がいくつも残っていたなんてこの時の俺は知るよしもなかったし、出来れば知りたくもなかった。 

 



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