閑話・クラウスがジャックに思うこと


ここのところ、思うところがあるのだが。


リゼリーをグランウッドに迎えてからというもの…母が興奮してより一層活発に

なったのはいいとして、我が従者の奇行が目立つようになった。



俺の従者――…そう、ジャックだ。



ジャックは外見を除けば貴族らしからぬ様相で話すし軽い印象は軽率だと周りから

度々批難を受ける的にもなるが、決してそれだけの人間ではない。


彼が馴れ馴れしくするのには二つの理由がある。


一つは本人が親しくしたい、もしくは親しいと信頼を置いている人間と長く付き合う

ために常に素を隠さずさらけ出している。


もう一つは、特定の人物に対して敢えて軽々しい態度を取って見せ、相手の興味や

不興を買うことで自分を優先的にターゲットにすること。


前者に関しては言わずもがな。


後者は従者という立場にはやや不釣り合いな気がしないでもないが、主人を守る

という意味では本人としては同意なのだろう。


それによって得た情報や敵の動きで助かった例は幾つかあるのだから声を大にして

注意することは無いにしても、やはり体というものがあるからには公の場であまり

その姿を晒しては欲しくない。


可能なら遠征で身分を隠している時だけにしてほしい。


今後なんて特にそうだ。


母は仕方ないにしても、ジャックにまで(奇怪な)問題を起こされ続けてはリゼに

俺は人を見る目が無いと呆れられてしまうではないか。


それだけは何としても阻止しなければ。


日頃から考えているものの、一体どう言葉を尽くせばジャックは理解してもっと

俺のこと(主に心境)を考えて行動するようになってくれるのか。


あいつの感性と思考回路は本当に理解できない。


ルーナ王国に行った時だってそうだ。


『王子様オーラ』とは、一体なんなんだ…!


これでも主人だからと驕らず従者の考えや行動を把握して理解に努めようとはしたが

域を越えていて頭痛が止まない。


それに、俺が話した記憶は全く無いのにどこかで情報を得て来ては何の違和感も無く

話の流れに乗ってこようとするのが怖いのだが。


ああ…それと。


あいつの作ったウサギ牧場…あれは何のために作られたんだ。


ジャックがウサギ好きというのは知っているが、俺の知っているウサギはあそこに

一羽として暮らしていない。


うまく調教して使えば暗殺でも可能にしてしまうくらいに可愛さの皮を被った強かで

凶暴な精鋭部隊が編成できるんじゃないだろうか。


少なくとも……俺は寝首を掻かれる自信がある。


彼らは繁殖力も強いからな……先日、苦い思いをしながら久方ぶりに顔を出せば

倍以上にその数は膨らんでいた。


本当に、そろそろ限界を感じている自分がいる。


あれを嬉々として愛でられる日が来る気は全くもってしない。



ただでさえ普段の仕事やら付き合いやらで忙しいというのに、考えることが多すぎて

落ち着く暇が無い。


ジャックも黙って補佐をしてくれていれば優秀な従者だと誰もが褒め一目置くと

いうのに聞く素振りは一向に見えない。


いや。むしろ、注意すればしただけ酷くなっているか……?


俺の注意の仕方が悪いというのか?


まて。そもそも俺はどうしてあいつを側に選んだ。


苦労の根源はまずそこにあったと思うべきなんだろう。


ああ……くそっ……思い出せるか、そんなこと。




「なー。クラウス。」


「……なんだ。」


「さっきからでかい独り言でオレの不満を言うのは良くないと思うぜ。」


「………今すぐ忘れろ。」


「いや、無理だろ。オレそんな超人じゃないし。」


「それなら強制的に忘れさせてやる。」


「ちょ……!ま、まてって!それは死ぬ!死ぬから!」



この日は小一時間ほど、クラウスの執務室ではジャックの悲鳴が木霊していたとか

していないとか。


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