#14
「わ…わたくしを手にかけたところで、何も変わりませんわ。お姉さまはこの国に
縛られ続けて…同じことの繰り返しなのよ…!」
「国に縛られる…?では、攫っても意味が無いと?」
「そうよ。お姉さまがルーナ王国を思い続ける限り、何も…っ。この国にはもう、
お姉さまを慕う人なんて誰もいないのに!こんな国…滅んでしまえばいいのに!」
ぽろぽろと大きな瞳から涙を溢して昂った感情のままに訴えるアニエスの言葉を
真剣に受け止めながら、自分の話を聞いてもらう為にも彼女を落ち着かせる術を
考える。
そして直ぐに思いついたのは遠征で農村を訪れた時に泣きじゃくっていた子供を
母親があやすのに優しく抱きしめて背中を撫でていた姿だった。
しかしあれは本当に小さな子供にするものであって、一国の王女として自覚のある
アニエスに果たして通用するものだろうか。
悩みに悩んでいる間にも目の前の彼女は泣きながら必死に抵抗を続けている。
こうなったらイチかバチか。
クラウスは隙を見計らってふわりとアニエスを抱きしめ、ついでに保険をかける
ように彼女の額へ優しく口づけた。
それに驚いてアニエスは目を丸くし、こちらを見上げ動きもピタリと止まった。
効果があったことにひとまず安堵して言葉を紡ぐ。
「…アニエス。落ち着いてくれ。俺は別に、世話になってる国に仇を返すような
ことをしたいわけじゃない。」
「……だって…。」
「少し乱暴にしたのは悪いと思っている。すまない。だけど、君に勘違いされた
まま逃げられては困るんだ。俺の話を聞いてくれないか。」
クラウスは努めて優しい声色でアニエスに話しかけ、彼女もまた徐々に落ち着きを
取り戻しているのかこくりと頷いてくれた。
「ありがとう。調査に関しては本当に、知りたいだけであって深い意味は無いんだ。
まあ…父に報告が行けば何かしら双方の役に立つことかルーナ王国に何かあった際に
手立てを打ってくれるはず。どちらにせよ、悪いようには使わない。」
「本当に…?」
「本当だ。それに、俺はこの国の真実を知ってもリゼのことを口外するつもりは
ない。彼女を易々と他の者に知られたくない。」
「それはどうして?」
「それは…。いや。とにかくだ。アニエスが納得してくれたなら、それでいい。
俺はリゼに聞きたいことがある。」
アニエスを抱きしめていた腕を外して離れようとしたが、今度は彼女の方が服を
掴んで放さなかった。
じっと見つめてくる瞳は先の問いに答えるまでこの場から動かないと言いたげに。
「…言わないと、ダメか…?」
こくこくと頷いて真剣な表情をするアニエスはすっかり落ち着いていた。
泣いて間もないので少し瞼が腫れているがすぐに引くだろう。
それでも自分が泣かせてしまったことは事実だし、弱っている女性を前に放置して
目的を優先できるほど酷い男にはなれない。
ましてやリゼリーの妹なのだ。
知られたところで別に困ることはないが、内容が内容なだけに。
「仕方ない…いいか。アニエスだから特別に教えるんであって、他の人間には絶対に
言わないと約束してくれ。」
「わかりましたわ。約束…致します。」
クラウスはアニエスにこそっと耳打ちするように理由を告げると、彼女は花が
咲きそうなくらいに喜びで顔を綻ばせた。
続いてこうしてはいられないと昨日同様に自分の腕を引っ張って足早にあの庭園へ
向かうのだった。
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