第三幕(本編・おはぎ(3)に該当)
ナレ「朝倉が大陸に渡る前日の
ナレ「目の前には、朝倉と同じく小田家家臣団の一人にして友である男、
ナレ「そして今河正澄の足元には、
アサクラ「なぜだ正澄!!! なぜ信義様を斬った!? 裏切ったのかッ!!!」
正澄「……なぁ朝倉」
アサクラ「なんだ!!」
正澄「俺とともに来ぬか」
アサクラ「……?」
正澄「お主は殺すには惜しい。お主なら、きっと
アサクラ「正澄キサマ……やはり敵方と……ッ」
正澄「この戦。もとより勝敗は決している。この弱小の小田が、今勢いに乗って諸国を統一しつつある泉澤を退けられると、お主は本気で思っていたのか」
アサクラ「それでも我らは戦わねばならん! 信義様が戦うと決めたのなら、我らはそれに従い、泉澤を退けねばならんのではないのかッ!!」
正澄「……」
アサクラ「違うか正澄! 友であるお前が、それを分からぬはずがないッ!!」
正澄「……」
アサクラ「答えろ!! お前は信義様に忠義を誓ったのではないのか!?」
正澄「忠義か……」
アサクラ「一度主に仕えれば、死を賭して主に従う……それが忠義というものではないのか!?」
正澄「ブッ……」
アサクラ「……?」
正澄「ブァハハハハハハハハハハハ!!!」
アサクラ「な、なんだ……?」
正澄「ハッハッハッ……フッフ……はぁー……笑わせてくれるなぁ朝倉よ」
アサクラ「何がだ!? 何がおかしい正澄!!」
正澄「お主のそういうところよ」
アサクラ「……?」
正澄「お主も気付いておろう。この世は乱世。強き者が上にのし上がり、立ち塞がるものは主君であれ親兄弟であれ、容赦なく斬り伏せる……それが今の世よ」
アサクラ「……ッ」
正澄「分かるか朝倉。今の世は、強くなければ生き残れぬ。強くなければ……強い者に付き従わねば、生きて行けぬのだ」
アサクラ「それは分かっている……だからこそ! 我らが主に忠義を尽すことに、意味があるのではないのかッ!!」
正澄「ふっ……フハハ……」
正澄「ハッハッ……なぁ朝倉……」
アサクラ「何だ!!」
正澄「お主は純粋すぎる……その真っ直ぐな心が、時に羨ましい」
アサクラ「……」
正澄「聞け朝倉よ。俺には、今河家を存続させるという使命があるのだ」
アサクラ「……」
正澄「幼き頃より、父上に何度も説かれた。「何としても今河家を守れ。それがお前が生まれた理由だ」とな。俺が泉澤に付いたのは家を守るためよ。父上の教えに従い、家を守るために、小田を裏切り泉澤に付いたのだ」
アサクラ「使命なら私にもある! 朝倉家を再興させるという悲願が……だが主を裏切ってまで……」
正澄「それはお主に、まだそこまでの覚悟がないということだ。違うか?」
アサクラ「違う!! ただ、己の道を踏み外してまで成就させる気にはなれんだけだ!!」
正澄「それを覚悟がないと言っているのだ!!! それを成し遂げるためならば、己の主を斬り捨て、友であるお主から「裏切り者」と蔑まれ、新しい主とその家臣から「信用が置けぬ」と捨て石のように扱われようが一向にかまわぬ……! 怨敵に尻尾を振り己が額を地にこすりつけて頭を下げ、嘲笑の的となり泥水をすすってでも成就させる……それが! 俺にとって今河の存続でありお主にとっての朝倉家の再興ではないのか!!? それこそが真の悲願というものではないのか!!」
アサクラ「何を……戯言を……!!!」
ナレ「朝倉は正澄の顔を見た。目の周囲の返り血は、いつの間にか流れていた彼の涙の跡に沿ってテラテラと輝いている。その様が、まるで正澄が血の涙を流しているように、朝倉には見えた」
ナレ「その直後、不意に巨大な爆発音が鳴り、朝倉と正澄の身体を大きく揺さぶった」
アサクラ「な……!?」
正澄「始まったか……」
アサクラ「城が砲撃されている……馬鹿な……この
正澄「今の泉澤の全力を持ってすれば、戦と城攻めを同時に展開することなど容易い。ましてや相手が小田なら、なおさらだ」
ナレ「その時、朝倉の頭によぎった光景があった」
亜矢『ふふ……そっかぁ〜……あさくらは、私の隣にいてくれるか……』
アサクラ「亜矢ッ!!!」
正澄「行かせんぞ朝倉」
アサクラ「退け正澄!! あの城には亜矢がいる!! 助けねばならん!!! 約束したのだッ!!!」
正澄「将来に禍根を残さず泉澤の基盤をより盤石とするため、小田の血は残らず断て……そういうご命令だ」
アサクラ「……!?」
正澄「無論、亜矢姫も殺す。今頃は城内に泉澤の
アサクラ「正澄……ッ!!!」
正澄「姫を助けたくば、この俺を斬れ。……今ならまだ間に合うかもしれんぞ」
アサクラ「……ッ」
正澄「お主の覚悟……己の道を進み朝倉家を再興させ亜矢姫を守る……」
アサクラ「……」
正澄「その覚悟をここで見せよ。見事、俺を斬り伏せて見せよ」
アサクラ「……」
正澄「朝倉ぁぁああアアアアアッ!!!」
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