第二幕(本編・おはぎ(2)に該当)

ナレ「そうして数年後。精悍な青年に成長した朝倉は、その献身的な忠義を頭領の小田信義に認められ、親友の今河正澄いまがわまさずみとともに家臣団の一員となった。一方の亜矢も、この頃になると凛とした佇まいが美しい一国の姫君へと成長していた。だが二人の関係はその間も、変わることなく、ずっと続いていた」


ナレ「それは、ある日の長い軍議が終わった後のことだった。頭領の小田信義の粋な計らいで、その日、小田家の屋敷にて、家臣団全員に最高級の落雁らくがんが2つ振る舞われた。だが、朝倉に振る舞われたものだけは、皆と違っていた」


正澄「……朝倉よ」


アサクラ「なんだ」


正澄「なぜ、お主の菓子は落雁らくがんではないのだ」


アサクラ「……このぶっさいくなおはぎが、私への褒美のようだ」


正澄「ほう……。……? ……朝倉」


アサクラ「ん?」


正澄「顔をあげよ。障子のところだ」


アサクラ「障子? 誰かいるのか?」


正澄「ああ」


亜矢「じー……」


アサクラ「な……亜矢……」


亜矢「じー……」


正澄「なぁ朝倉」


アサクラ「なんだ正澄」


正澄「そのおはぎ、亜矢姫が作ったものであろう?」


アサクラ「ああ。おそらくは」


正澄「はよう食うてやれ。姫のあの様子、見ておれん……」


アサクラ「では……はぐっ」


亜矢「ふぁ……」


アサクラ「もっきゅもっきゅ……うまい」


正澄「満足げだなぁ朝倉よ」


アサクラ「実際にうまいからな。この通り、見てくれはぶっさいくだが」


正澄「羨ましい限りだ」


アサクラ「正澄も一つ、食うてみるか?」


正澄「いらん。俺が食っては、姫に申し訳が立たんでな」


アサクラ「遠慮せず食えばいいだろう。あいつに義理立てしてもどうにもならんぞ」


正澄「お前はそう言うがなぁ……姫を見てみろ朝倉」


アサクラ「ん?」


亜矢「むふー(ドヤ顔)」


アサクラ「……」


正澄「……」


亜矢「あさくらっ。今日も私のおはぎを食って、笑うてくれたっ。むふー(ドヤ顔)」


アサクラ「間抜け面だなぁ……」


正澄「姫があのような顔をしている以上、そのおはぎは朝倉が全部食うべきだ」


アサクラ「気にせんでもいいだろうに……」


正澄「時に朝倉。お主と姫は、幼馴染と聞くが」


アサクラ「腐れ縁でな。あの頃から私にはよくおはぎを作ってくれる」


正澄「喜べ朝倉」


アサクラ「何をだ」


正澄「小田はもちろん、朝倉も安泰だ。朝倉家の再興が悲願であるお主には、朗報であろう」


アサクラ「言ってる意味がさっぱりわからん……」


正澄「だとしたらお前は、朴念仁というやつだな」


アサクラ「うーん……」


小姓「姫! 小袖でそのように小走りされるとは、はしたないですぞっ!!」


亜矢「んふふ~ あさくらがっ! 今日も笑顔でうまいと言うてくれたのじゃ~」


アサクラ「あのアホ……ん?」


正澄「ニヤニヤ」


アサクラ「なんだ正澄……」


正澄「いや、姫お手製のおはぎは、さぞうまかろうと思ってな。ニヤニヤ」


アサクラ「……」

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