【声劇用台本】姫様と料理人内エピソード「おはぎ」

おかぴ

第一幕(本編・おはぎ(2)に該当)

ナレ「朝倉には、『亜矢』という名前の幼馴染の女性がいた。歳は朝倉よりひとつ年下。意思の強そうな相手をキッと刺す眼差しが印象的な、つやつやと美しい黒髪の女性だ。頭領である小田信義おだのぶよしの娘であった亜矢は、幼少の頃より朝倉とともに徳山景能とくやまかげよしから武芸を習い、幼少の頃から朝倉と共に兄妹のように育てられた」


亜矢「のうあさくら?」


アサクラ「なんだ」


亜矢「お主、思いを寄せるおなごはおるのか?」


アサクラ「おらんな」


亜矢「ではお主に言い寄ってくるおなごなぞは?」


アサクラ「それもおらん」


亜矢「武芸一辺倒で汗臭いお主なぞ、もらってくれるおなごはおらんだろうなぁああ!! ザマミロあさくらぁぁぁああ!!!」


アサクラ「お前だって私と同じだろうが! 汗臭いおなごなぞ、貰い手がおらぬぞ!!」


亜矢「私は小田家の跡取りぞ? お主が心配せずとも、ちゃんと将来は良き夫と夫婦になるわ!」


ナレ「稽古のあとのそんな軽口からの口喧嘩が、まだ幼かった二人の、毎日の日課だった」


ナレ「そうして時は過ぎていき、二人は成長していった。だがそれでも、二人の関係は変わることがなかった」


ナレ「そんな、ある日のことだった。朝倉はその日も稽古に励んでいた。普段なら共に稽古をしている亜矢が、その日に限って稽古に顔を出さなかったことに、不思議な違和感を感じていたのだが……」


亜矢「あさくら、あさくらっ」


アサクラ「ん? 亜矢か。今日は稽古に出てなかったではないか。どうした?」


ナレ「これから自身の屋敷に戻ろうとしていた朝倉を、そんな亜矢が呼び止めた。台所から朝倉をちょいちょいと呼び止める亜矢は、たすきがけをしていて、額にはうっすら汗をかいている」


亜矢「ちょっとこっちくるのじゃ。あさくらっ」


アサクラ「おわっ!? なにをするッ!? 私を引きずるなーッ!!!」


亜矢「いいからっ!」


ナレ「そんな亜矢に突然に手を引っ張られ、朝倉は小田家の屋敷の台所に引きずり込まれた。台所には湯気が立ち込めていて、つい今しがたまで、誰かが調理をしていた様が見て取れた」


アサクラ「どこかと思えば台所ではないかッ! ここに私を連れてきて一体何するつもりだッ!?」


亜矢「のうあさくら? お前は、いつも稽古をがんばっておるのう?」


アサクラ「あんッ!? ……あ、ああ。将来は信義様にお仕えせねばならんし、なにより、朝倉家を再興せねばならんしな」


亜矢「立派な心がけじゃ。この私、小田信義の娘である亜矢が、直々に褒めてつかわす」


アサクラ「お、おう……」


亜矢「ほれほうびじゃ! よう味わって食え!!」


アサクラ「ん、なんだこれは……?」


亜矢「おはぎじゃ!」


アサクラ「これ、亜矢が作ったのか?」


亜矢「そうじゃ! 日頃がんばっておるあさくらをねぎらうためにな!」


アサクラ「……」


亜矢「がんばる家臣にはほうびを取らす……これも主君の務めよ! 遠慮はいらぬぞあさくらよ。よう味わって食え!! ほれ今すぐ食わぬか!!」


アサクラ「お、おう……では……はぐっ」


亜矢「どうじゃあさくらっ? どうじゃどうじゃ?」


アサクラ「もっきゅもっきゅ……んー……」


亜矢「ほれほれうまかろ? 遠慮なく私をほめてよいのだぞ?」


アサクラ「んー……」


亜矢「んー?」


アサクラ「……ぶっさいくなおはぎだ」


亜矢「なんじゃと!?」


アサクラ「ぶっさいくだと言った」


亜矢「せっかく……私が作ったおはぎなのに……ッ!!!」


アサクラ「だがうまかった」


亜矢「へ……?」


アサクラ「こんなうまいおはぎを食ったのは初めてだ。大きくて食いごたえもある。また食いたいな」


亜矢「そっか」


アサクラ「また作ってくれないか? この、ぶっさいくだが旨くて亜矢らしい、とてもうまいおはぎ」


亜矢「……」


アサクラ「なぁ亜矢よ」


亜矢「!? な、なんじゃ!?」


アサクラ「顔真っ赤だぞ」


亜矢「う、うるさいたわけめっ!!」


アサクラ「?」


亜矢「し、しかし……しかたないのう……そんなにうまいと申すのなら、また作ってやるわい!!」

アサクラ「ホントか! ありがとう!!」

 

亜矢「し、しかしあさくらよ! 一つだけ約束じゃ!!」


アサクラ「ほ?」


亜矢「もし、私のおはぎを食べたいのなら、ずっと私のそばにおれ! 私の父に仕え、常に私をとなりで支えよ!!」


アサクラ「……まぁ、かまわんが」


亜矢「ほ、ホントか……?」


アサクラ「どちらにせよ今も似たようなものだし、多分ずっとこうだ。だから、たとえお前が嫌だと言っても、私はお前のそばにずっといることになると思うぞ」


亜矢「そっか……そっか……!! では、またお前におはぎを作ってやらねばな!!」


アサクラ「ああ。うまいおはぎを頼む」


亜矢「ふふ……そっかぁ〜……あさくらは、私の隣にいてくれるか……」


アサクラ「亜矢?」


亜矢「ニシシ……」


アサクラ「?? ???」

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