第35話

 ーー 同日昼頃 ミッセア草原 ーー


 王都の西門から出る定期馬車で三時間と少々、途中下車をして降りた先は、標高二〇〇メートル弱の山々と広葉樹林に囲まれた、広さ二六〇平方キロメートル程の長閑な草原ミッセア草原だ。

 ここに依頼の品である《センノウタンポポ》と近くの森に《トビハネウサギ》が多く生息しているらしい。


 さてさて、そんな事で自分達は今センノウタンポポの種の採取をしている。


「図鑑に因ると、センノウタンポポは私達のよく知るタンポポの様に綿毛で種を飛ばすわ。でもその綿毛の飛び方は何故か花器を離れて二分の間はどのセンノウタンポポでも飛び方が一緒。そして大地の魔力を多く含んだ種子は常に微弱な波動を出していて宙を一定の軌道で飛ぶ綿毛を見てしまうと意識が混濁してしまうの。注意しないといけないわね。」

「非常に分かりやすかったよ。なにせ.........」


 自分達の五メートル先を見据えて言う。


「実例がこんなに近くにあればね。」

「やーぱー。」


 ただのタンポポと侮ったアツシが飛んだ種を見てしまい、正に意識混濁としている。


「ちなみに知能の低い生物程、効き目が良いらしいわよ。」

「何となくわかる。」

「そ。じゃあ作戦通りやってしまって。」

「ハイハイ。」


 自分は魔法で空中の綿毛を霜走らせて重量を重くし一気に種を落とす。

 ついでにアツシの頭上へと少しだけ大きめの氷柱を作り落とす。なんと氷柱はアツシの服と背中の間にすっぽり入っていった。


「ぎゃあ!!!!冷た!?って、今、オレは何を?」

「馬鹿はさて置き回収終わったし、次に行きましょう。」



 ーー ミッセアの森 ーー


「いたいた。大きく真っ直ぐな耳、張り紙の挿絵の特徴と一致するね。あれが《トビハネウサギ》で間違いない。」


 自分達三人はそれぞれ茂みの中に身を潜め、ステルス状態で目の前の白い兎を見張っていた。


(何の罪も無い可愛い兎を狩るのは可哀想だけど.....!)


 アツシが茂みから飛び出す。

「先手必っしょおおう!!悪いがやられてくれ!!」


 背面から火を噴き出し加速したアツシがトビハネウサギへと切りかかる。

 普段なら勢いで飛び出したことを責める所だが、今回に限っては正解かもしれない。トビハネウサギ達が一斉に後ろへと逃げ出すが加速したアツシの速度の方が速くその内追いつく事は間違いない。


 自分はアツシの援護をすべく、トビハネウサギ達の進行方向を氷結させる。

 それに気付いたトビハネウサギ達は走る速度を抑え後ろ脚に力を入れる。


(着地を狙って一気に捕獲する!!)


 トビハネウサギは脚をバネのようにして大きく上へと跳んだ。



「いや、飛んだぁーー!?」

「嘘ぉ!?」


 なんとトビハネウサギは耳を翼の様に羽ばたかせ、宙を飛んでいた。

 自分もアツシもポカーンとして立ち竦んでいた。


「あら、知らなかったの?トビハネウサギは大きな耳を羽替わりにして更に簡易的な風を吹かせる魔法を使って空を飛ぶ動物よ。」

「知ってたの!?と言うか、飛び跳ねトビハネ兎じゃなくて飛び羽トビハネ兎って事なの!?意外過ぎるのも程があるよ!!あぁ、もう!!」

「とりあえず俺は追っかけるぞ!!」


 アツシは先程のジェット噴射を下向きにして宙へと飛び出す。

 そして聖剣を振りかぶり剣の腹を下に振り下ろしトビハネウサギ一羽をたたき落とした。

 しかし、このペースではノルマは間に合わない。


 イクコが溜息を一つついて前に出た。


「センノウタンポポの礼よ。馬鹿猿、下がってなさい。」


 イクコは懐の袋からセンノウタンポポの種を一粒取り出すと地面に埋めた。

 そして一言、

「『咲け』。」


 とだけ言い魔法を使うと、たちまちにセンノウタンポポが一株三輪咲いた。

 イクコはそのセンノウタンポポを摘み取り薄いピンク色の唇に近づけ、ふっ、と息を吹きかけて綿毛を飛ばす。そしてその綿毛は風に吹かれてあっという間にトビハネウサギの群れへと追いつく。

 トビハネウサギ達は意識を失い、そのまま直下する。後は回収してお終いだ。


 自分とアツシが惚けていると、イクコは嬉しそうに自慢げな笑みを自分に向けていた。

 後でクッキーでも奢らないといけないかもしれない。



 秋の西の空にはほんのりと夕の暗さが掛かっているが、空はまだ明るい青色をしていた。どうやら復路の定期馬車には間に合いそうだ。

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