第33話

 ーー ストリクス王私室 ーー


「お前に話そう、あの追放の真実を。」


 ストリクス王は語り始める。


 ーーーー


 初めに、何故闇の勇者が追放されなくてはいけなかったかだが、あの者に限らず闇の力を持った者は人達の間で忌避される。理由は単純、迫り来る黒い雲を彷彿とさせるからだ。実際には、王城に仕える王属魔術師達の研究によってそれらは全く関係の無いものだと判明しているにも関わらず、だ。


 闇の勇者が街に出ればお前達がパレードをした時とは飛んで来るものが代わる。歓声が罵声に、贈物が石礫に。


 そうなればほぼ間違いなく闇の勇者は魔族の方に寝返る、いやその表現は正しく無い、掌を返したのはこちら側なのだから。兎も角、それは簡単に起こりうる最悪に近い想定だ。


 その為、なるべく民衆から遠ざかる手段としてダンジョンへの『追放』となったのだ。

 そして、その行先であるダンジョン、《辺獄の地下迷宮》は、並の人間では入るどころか近寄る事さえ不可能な闇の魔力に満ち満ちていて、その出入口は封鎖されている。しかし、最高位の闇の魔力を持つ闇の勇者ならば中に居ても平気な上、中の迷宮産魔物メイズ・モンスターの攻撃にも耐性がある。故にあの場所が追放する先へと選ばれたのだ。


 ーーーー


「これがあの追放の真相だ。」

「じゃあ、あの時のあの表情かおは.........」

「顔に出してしまうとは、我ながら未熟よな。」


 ストリクス王は自らを嘲るかの様に微笑した。


「当然だ。儂は最も正しい選択をしたと、思っているが、それでもだ。闇の勇者にはかなり酷なことをしたと思う。だから儂はその責を負い、闇の勇者が戻って来た時には我が命をもって贖うつもりだ!!」

「国王陛下......」


 ストリクス王は椅子を立ち、声を張り上げる。

 だが......


「どうして震えているのですか?」


 ストリクス王は、ツーと涙を流して手足は震えていた。

 更に、後ろのジゼルも悔しげな表情を浮かべていたし、フレイアに至っては膝から崩れ落ちて悔し涙を流していた。


「何を言って.........これは...!!」

 ストリクス王は自分の震えた手を見て驚いた。

 ストンと椅子に腰が落ちる。


「何故、身体が震えて.........あ、アッハッハはは!!」

 何か腑に落ちたのか、ストリクス王は子供の様に突然笑い出す。


「ああ、そうかそう言うことか。ユキヤも笑え!!儂はな、命をもって贖うだなんだと言っておきながら、怖いのだ!!死ぬ事が、産まれたばかりの孫の顔を見て『思い残す事は無い』とか言って置いて死ぬのが怖い!!アッハッハッハッ!!」

 大声で笑うストリクス王は、その反面、途切れる事の無い涙を流していた。


「国王陛下......」

「陛下......っぐ!!」

「うっ!!ううぅ.........」


「アァハハハ!!ハッハッハうわあああぁ!!ああああ......」


 悲しみのスコールはその後五分間、降り続いた。



「すまんな、国王ともあろう者がみっともない所を見せた。」

「こちらこそすみません。国王陛下の決意を削ぐ様な真似をして。」

「良い良い。儂も散々に泣き散らして吹っ切れたわ。」


 くっくっく、とストリクス王は鼻を鳴らして笑った。そして、自分の孫に笑いかける祖父の様に自分に微笑んで言った。


「ありがとうユキヤ、お陰でもう怖くない。勇気をありがとう。さあもう夜も深い、風呂に入って休みなさい。」


 そう言ったストリクス王の表情かおは、一切の憑き物が落ちた穏やかで強い目をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る