第32話

 ーー 翌日 貴賓室 ーー


 端的に言うと、自分は今とても緊張している。今でもあの時のストリクス王の眼光を思い出すと胃がキュッ、と絞まる様な気分になる。


 ベッドに座り込むこと三十分弱、扉がコンコンとノックされる。


「ユキヤさんお迎えに上がりました。」

「お願いしますフレイアさん。」


 ベッドから立ち上がり自分の与えられた部屋を後にする。


 それから自分が一つ礼を言った他に交わされる言葉は無かった。


 フレイアに連れられ廊下を渡り、螺旋階段を降り、ストリクス王の私室の前まで来た。

 ちらりとフレイヤへ視線を贈る。僅かな間目が合い意図することが伝わったのかフレイアは浅く頷く。


 フレイヤが扉を二度ノックする。

「フレイア・リリスリィ、氷の勇者ユキヤ様をお連れしました。」

 すると中から一言だけ、「入れ」と、ストリクス王の声がした。


「失礼します。」と、フレイアが入ったので自分も「し、失礼します。」と震えた一言、中に入る。

 広い私室にはストリクス王とジゼルだけが居た。


 ストリクス王の私室は流石国王の部屋と言うだけあり、調度品は高級なならの木材を使っているなど正に一級品と言う言葉が相応しいものばかりだった。

 しかし、金といった貴金属や宝石の類は余り見えず部屋の多くを占める木の色はいっそ素朴な様にも見える。


「よくぞ来た勇者ユキヤよ。話がしたいと聞いていたが何が聞きたい?報酬か?ハッハッハ!余程でなければ聞き入れようではないか!」

 ストリクス王は快活に笑う。


「いいえ、違います。」

「ではなんだと言うのだ。」

「僕が聞きたいのは.........!!」


 言おうとした瞬間、ストリクス王の目が鋭くなりストリクス王とジゼルの二人から殺気が放たれる。


「い、え.........な......ッ!!」

『なんでもない』と、恐怖に負け言いそうになる。

 が、ここで言葉を呑み込んだら、自分は絶対に後悔する。そういう確信がある。

 恐怖を軽減するため前歯で自分の下唇を強く噛む。


「クロトはなんで追放されたんですか!?されなくちゃいけなかったんですか!?そして、国王陛下は、追放した本人であるアナタは!!なんでそんな目を、悲しい目をしていたんですか!!!!」


 キバイノシシに立ち向かった時以上の勇気、己を貫く勇気を奮い立たせ、胸の奥、喉の奥に詰まっていたものを吐き出す。


「ッ!!」


 ここに居る自分以外の三人は苦痛の表情を見せる。


「ユキヤさん、それは.........」

「残念ですがユキヤ様、その事についてはお話出来ません。ご退出願います。」

「なっ!?」


 目に負えぬ速度で自分の背後に移動したジゼルの二本の指が指が頸動脈へと添えられる。


「お休みなさいませ、ユキヤさ...」

「待て、ジゼル。」

「陛下?」


 ハァーと一つ長い溜息をつくとストリクス王は疲れたように椅子に座った。


「儂の負けだよ、勇者ユキヤ。お前の勇気に完敗じゃ。」

「それじゃあ......!!」


 ストリクス王は年齢相応の微笑みを見せて言った。


「良いだろう。お前に話そう、あの追放の真実を。」

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