第31話

 ーー 翌日 小会議室 ーー


「えーと、勇者の皆さん、アイラです、ハイ。」


 自分達は魔法の講義を受けるいつもの小会議室に集まっていた。ただし、目の前のアイラの後ろにジゼルが立ち、アイラの頭には漫画のような大きなタンコブがそびえ立っている。

 アイラはソレにグリグリと手を押し付け消し去り、いつもの頭に戻る。恐らく無駄に高等な魔法技術を詰め込んだアピールや芸の一つなのだろう。


「今日は...私めが前回忘れていました......魔物の生態について話したいと思います......ハイ。」


 今日のアイラはやけにテンションが低い。言わずもがな原因は後ろで睨みを効かせているジゼルだろう。


「魔物というのはそのまま、魔族領に生息する生物。そのどれもがこちら側の生物よりも強力になっているわ。」


 自分は頭についこの間戦ったばかりのキバイノシシを思い浮かべる。

 一応変異種ということで通常より多少は強かったらしいが、あの化け物が魔族にとっては家畜扱いだそうだ。


「そして最大の特徴、魔物や魔族、魔族領に住む生物は陽の光の下に出られないこと。彼らは陽に当たると皮膚や眼球、身体のあちこちが焼け爛れるの。例外もいるけどね。逆に私たちヒトが魔族領の黒い雲の下に居ると身体がボロボロになって崩れ去るわ。」


 だから基本は魔物や魔族による被害はそこまで大きくはない。棲み分けが出来ているからだ。

 しかしある疑問が浮かぶ。


「アイラさん、それだとおかしくないですか?魔族とヒトとでほぼ完全に棲み分け出来ているなら僕達は態々魔王を倒しに行く必要は無いじゃないですか?」

「ピーン☆ポーン!!ユキヤ君いい事いっ...たあぁ!?」


 アイラは突然いつものテンションに戻ったと思ったらジゼルに棒状に丸めた紙束で頭を叩かれる。

 再びタンコブが出来ている。恨めしそうにジゼルを睨むが更に数段鋭い睨みを返されすごすごとこちらを向く。


「すみません、取り乱しました。基本的にはお互い不干渉で済みます。しかし、魔王が現れるとそうは行きません。黒い雲はこちら側にも広がるのです。当然、黒い雲が人族領を覆うとこちらに住んでいた生命のほぼ全ては息絶えます。勇者様、貴方達を除いて。」

 アイラは話す重圧に、渋々では無く、汗ばんだ拳を握り、声が沈んでいく。


 人族は、否陽の下に暮らす全ての生命が息絶える。オレンジの明かりも、ノニ山の自然も、この王国に住む人達も、それ以外の人達も全て。


「そんなの......認められる訳ない!!」

「そうよ!!エマちゃんも、アイラさんも、ジゼルさんも、料理長さんも!!」


 コウイチとイナホが叫ぶ。

 口にこそ出さないが奥底で沸々と湧き上がるものがある。


「だから、お願いします勇者様!!どうかこの世界を救ってください!!」


 アイラがいつもに無い悲痛な表情で頭を下げる。


「当たり前です!!私にあんなに優しさをくれた人達を助けたい!!」

「僕もね。こんなに綺麗な所を無くしちゃいけない。」

「俺は、この世界に住む皆を守ります。護れる勇者になります!!」

「ありがとうございます......ありがとう勇者様!!」


 顔を上げて礼を言うアイラの目は涙で潤んでいた。


 イクコも言葉には一切出さないが、いつもとどこか雰囲気が違う、少し感情味のある顰めた目をしていた。


 所でこういう時に真っ先に叫ぶようなヤツが.........


「zzz」


 なんと!!アツシはこの状況の中、うつらうつらとしているではないか!!


 ソレを見かけたアイラ。

 後ろから赤いチョークを手に取って.........


「なに寝腐っとんじゃあああ!!!!」


 身体強化の魔法を使ったアイラの全力投球もとい投チョーク。

 しかし、紙束を高速で頭に叩き込まれ姿勢が崩れ勢いが減衰する。アイラのタンコブが雪だるまの様な二段重ねになる。


 しかし、赤チョークはアツシの眉間に吸い込まれる様に飛び、直撃する。

「アダッ!!」と短く声を出しアツシは椅子ごと後ろに倒れる。

 アイラも頭への一撃を貰い倒れる。


「悔い......無し.........グヘッ。」

「『悔い無し』では無い問題大有りだ馬鹿者め。」



 ーー 夕飯後 大食堂前廊下 ーー


 夕飯を皆で食べた後、自分はフレイアに呼び止められる。


「ユキヤさん、許可が降りました。明日、私がお連れします。」



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