第26話

 ーー ノニ山中村 ーー


「勇者サマ、初依頼の達成おめでとうございます。倒したキバイノシシは運んでおきましたよ、ってその子供キバイノシシ何なんすかしかも二匹。」

「飼います。」

「ピギ!」

「ぷー。」

「.........あー、えー、ちょっと待っててください.........あ、もしもし騎士長実は〜」


 フロロは少し離れて騎士長ジゼルへと連絡する。

 少しすると遠距離連絡用の魔法道具をポケットへと仕舞い戻ってきた。


「ちゃんと最後まで面倒見切れるならOKだそうです。」

「やったー!!」

「こっちは話がわかるぅ!!」

「アツシ、今誰と比較したんだい?」



 ーー ノニ山中村、コンコ宅 ーー


「ありがとうございます勇者様!!これでこの村は救われました!!」

「宣言通り、仕事をちゃんとやったまでです。ところで、キバイノシシの素材はどうしますか?」

「其方に全て行き渡ります。ただでさえ強力な個体だったそうで、寧ろ依頼料が少ない程です。その分素材の処理と今晩の夕飯と寝床で足しにさせて貰えると助かります。どうでしょうか?」

「みんな?...うん、そう分かった。ありがとうございます。喜んでお受けします。」

「ああ、ありがとうございます!今晩はせめてもの出来る限りのご馳走と宴会にしましょう!!」



 ーー その晩、ノニ山中村 コンコ宅 ーー


 村の人達がコンコの家に集まってどんちゃん騒ぎの宴会となっていた。

 並ぶ料理はエマを始め村の女衆が腕によりをかけて作った物だ。

《ケンケン鳥(雉に近い)のローストチキン》

《ジュウモンジタケの網焼き》

《桃源花の塩漬け》等々......

 どれも山里ならではの新鮮な食材が多い。


 こういった人が集まる場所は苦手なのかイクコの姿は見えない。


 その一方で......

「コウイチ様、こちらをどうぞ!腕によりをかけて作ったんです。」

「あ、ありがとうエマさん。」

「今更、エマでいいです。ささ、遠慮なさらず。」

「頂きます。うん美味しいよ。」

「ありがとうございます!!さあさあどんどん食べて下さい♡」


 エマがコウイチの口へ口へと料理を運んでいる。エマは大層ご満悦の様子だが、コウイチは少し引いている。


 不意に肩に手が乗せられる。

「はーズリーよなーコウイチは。なあユキヤ。」

「そういった事に関して僕に絡むのはお門違いだと思うよアツシ。」

「そーかい、はー羨ま羨ま。」

 宴もたけなわであった。



 ーー 翌朝 ーー


「勇者の皆様、キバイノシシの討伐本当にありがとうございました!!」

「こちらこそ、昨晩のご馳走は絶品でした。ご馳走様でした。」


 依頼のキバイノシシも討伐完了。達成のサインも貰ったので用事も終わり。これから王都へと帰る事になる。


「じゃー勇者サマ、馬車に乗ってください。準備完了しました。」

 ぞろぞろと馬車に乗り込む。


「お待ちください!!」

「エマ?どうしたの慌てて。」

「これをコウイチ様に......」


 取り出したのは四角い手縫いの御守りだった。


「桃源花の種を入れた御守りです。貰って下さい。」

「ありがとう。大切にするよ。」

「私、そのうち王都へと行こうと思います。王宮へ勤められるよう頑張ります!!」


 馬車が走り出す。


「勇者様ー!!ご無事をお祈り申し上げておりまーす!!」

「ありがとう勇者様!!」

「ぜひまたの機会にいらしてくださーい!!」

「最大級の歓迎を約束しまーす!!」


 カラカラと無機質な音を立てて馬車は進む。そして彼らの姿が見えなくなるまで続いた。



「さあ反省会を始めようか。」

「プギー!」



 ーー ノニ山 ーー


「コウイチ様達のおかげでキバイノシシは居なくなったけど村の宝、桃源花が.........」

「仕方ないさ、それが自然というもの。それに大事に育んでいけば、また元に戻る。気長に待とう。」

「でも.........え?嘘?」

「どうしたんだエマ?これは.........」


 私の目の前に広がっていたのは今まで以上の輝きを放つ桃源花の花々だった。




 ーー 馬車の中 ーー


「そう言えば、桃源郷と言われた桃源花の畑、見たかったな。」

「あら、きっと次行く時は見れるわよ。」

「......イクコちゃんからそんな励ましの言葉が聞けるなんてね。」

「あらそう?それと.........」




「桃源花って月陰の夜空こそが最も似合うと思うの。」

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