第24話

 ーー ノニ山 ーー


 罠を仕掛け待ち伏せの準備も仕上がっているが、あの巨体だ。安心はできない。


「追っかけて来た!!」

「イナホ!!早く退避して!!」

「りょ、了解!!」


 踏み間違えた自動車の様に、キバイノシシはいきなりとんでもない初速で駆け出す。

 最初に足に縄をかける、括り罠を踏む。見事、キバイノシシの左の後脚に縄が巻き付く。

 しかし僅かに鉄線も編まれた特注のワイヤはキバイノシシの逞しい脚に負け、いとも容易く引きちぎられてしまう。

 第二の罠、トラバサミ(一つ六十ウィット)は二つ仕掛け二つとも踏み抜かれたものの圧倒的な脚力により粉砕されてしまう。

 そして第三にして最後の罠、全高三・五メートルの落とし穴。


「引っ掛かった!!」

 キバイノシシは綺麗に穴に落ちた。

 しかし......


「嘘だろ!?」

 キバイノシシは地面に叩きつけられたゴムボールの様に弾む様に跳んで脱出した。

「きゃあああ!?こっちぃ来たああああ!!!!」

 穴から飛び出したキバイノシシは陽動を担当したイナホを真っ直ぐに追い掛ける。木の上の届かない位置にいるので当たらないとは思うが。

 ハッとする。

「イナホ!!他の木に飛び移って!!」

「へ?うわああ、とっ、トウ!!」

「グゴゴオオォ!!!!」

 イナホがものの数秒前までいた木にキバイノシシが突進する。木は下の方から折れるだけで無く、そのまま五メートルは飛んでいく。


「あ、危なかった.........」

「仕方ない。全員、キバイノシシに囲んで攻撃!!ただし正面にだけは立つな!!」

「「了解ラジャー!!」」

「叩ッ切ってやらあ!!」


 アツシは自身の大振りの聖剣、《灼火しゃっかの聖剣》を水平に構える。立っている位置は猛進して来るキバイノシシの直進から少しズレた位置。


「あの馬鹿!!」

 コウイチはうっかり悪態を付く。

「うおおらあああっ!!!!」


 アツシは横薙ぎに聖剣を大きく振るった。

 炎を纏った聖剣は太い牙と正面からぶつかり、迫り合いとなった。


「グゴオオ!!」

「らあああ!!」


 数秒の硬直。すると流石伝説の聖剣、その斬れ味と頑丈さでキバイノシシの牙に少しづつ食いこんでいく。

 それに慌てキバイノシシはほんの僅か後に下がり少し頭を下げてから一気に上げて、聖剣をしっかりと握ったアツシごとかち上げる。


「うわあお!!」


 アツシは吹き飛ばされたが空中でクルリと回り、威力を流して木の枝に掴まる。


「危なかった〜。」

「いや、正面に立つな。って言ったばっかだろ!!」

「だから正面からズレてただろ。」

「正面の範囲内だ!!」

「お、そっか。ワリ。」


 コウイチは拳を握り、プルプルと震えていた。

 またイクコは、ハア。と、溜息をついて呆れていた。


「反省会は後だ。今は兎に角キバイノシシを片付けるぞ!!あとアツシ、お前は後で説教だ!!」

「ゲェー!!勘弁してくれ!!」

「文句言わない!!ホラ、キバイノシシが来たぞ!!全員散開!!」


 バラけてしまったが、キバイノシシの突進は強力だ。どうにかして隙を作らなければ.........


「って、今度は僕の所かーーー!!」

「ブゴオオオ!!!!」


 一目散に逃げながら時折、小さな氷柱を魔法で幾つもぶつける。

 が、キバイノシシの厚く暑い毛皮に防がれて、ダメージも寒気も入った様子は無い。


「ヤバいヤバいヤバい!!どうする!?何か手は?」


 追われ追われて思考と言語が乱れる。

 すると見覚えのある物が視界に入る。


「これだー!!」


 咄嗟にその赤い実、《アカチリ》を幾つか捥ぎ取り、手の中で砕き潰し、後方目鼻を目掛けて放る。


「こ、れ、で、も、くらぁえええ!!!!」


 アカチリの粉末欠片は見事キバイノシシの顔面にまぶされる。

「プギイ!?」


 キバイノシシは目と最も鋭敏な器官である鼻を潰され、そのまま木にぶつかって止まる。

 感覚器官が無効化されても決して殺されまいとキバイノシシは矢鱈目鱈に縦横無尽に暴れ回る。

「止まりなさい!!『葛:雁字くず がんじ』!!」

 イクコは周辺の蔦を強化し、キバイノシシを絡める。


「僕の氷では効きが悪い!トドメは任せた!!」

「任せられた!トドメだ!!『痛みは一瞬レイ・オブ・フィン』!!」

「!!ビギ......」


 光を纏った天照てんしょうの聖剣は平時の二倍以上の刀身となり、光の本流は一瞬でキバイノシシの首と胴体を切り離した。

 首を落とされたキバイノシシはズズンと音を上げ倒れた。


 自分勇者達の勝利だ。

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