第22話

 ーー ノニ山七合目付近 ーー


「あ、そこのキノコ《ジュウモンジタケ》は美味しいヤツです......そっちじゃなくて隣です。ソレは《バッテンダケ》といって猛毒キノコです。」

「紛らわしい名前と見た目ね......」


「あの赤いのは《アカチリ》の実、赤くて丸くて可愛い見た目ですがとても辛いですしちょっとでも目に入ると痛いです。」

「げげ、アブねー食おうとしてた。」


「その赤紫の葉っぱは《ゴンベラ》。毒々しい紫とトゲトゲした見た目に反して栄養価が高く熱量カロリーが低いと王都の女性に密かな人気があります。」

「うーん、勉強になるなあ。」


「あ、ラッキーです!!あそこの黄色い果物は《マグメグの木》の実です!!お祝い事に人気の高級食材ですよ!!コウイチさま、お一つどうぞ!!」

「あ、ありがとう。ところでちょっと近くない?」


 山に入った自分達五人とエマ。

 標的ターゲットの《キバイノシシ》の痕跡と食料を探している。

 エマは植物に詳しくまた観察眼もある。

 その為、事、野草などの採取に置いては村で一番らしい。実際、山に入ってからエマは大量の食用植物を採っている。


 そして、


「コウイチさま!こっちの《アマクコ》の実も美味しいですよ召し上がってください!!」


 コンコ曰く、エマはかなりのコウイチのファンらしく、この間のパレードにも来ていて涙を流しながら黄色い絶叫を上げていたらしい。


「そしてここの獣道の先には村の特産、《ノニ桃源花トウゲンカ》という花の群生地があってその光景はまさに桃源郷!また、花弁を食べたりお茶にしたりするんですが、これが大地の力を、これでもか!と、言うほど帯びていて不死の薬の材料の一つとも言われたりするんですよ。」


 桃源花は幾つか種類がある。その中でノニ桃源花は艶やかなピンク色をしており、一本一本がヒマワリの半分位の大きさだ。更に採取し易い所に群生している為、安定して供給出来るのである。

 六人は何となく茂る草が低い程度の獣道を抜ける。その先に.........


「酷い......」

「一本も残っていないなんて!」


 環状に木々が開けた所には半ばから食いちぎられた桃源花の基だけが立っていたり踏みつけられて倒れ残っていた。


「私達...昔から一度も...あの桃源郷を絶やすこと無く管理して来たのに......」


 エマはじわりと目に涙を浮かべ崩れた。

 今度は逆にコウイチがエマに寄った。

「安心して。キバイノシシは俺たちが必ず倒すさ。それにね、桃源花だってそのうちまた生えてくるさ。」


「コウイチさまぁ......」

 エマは紅潮した顔と涙で潤んだ目でコウイチを見上げた。


「ねえ!!ちょっと見てあれ!!」

 イナホが声を上げて皆を呼ぶ。


「立って。」

 コウイチは手を差し出す。

 エマは赤い目の笑い顔で手を取った。


「何があったの?」

「アレを見て。」

 イナホが指を指す先には木々が押し倒され草花が踏まれて出来た道だった。サイズ的にキバイノシシが通った跡だろう。


「ヘッ、桃源花も桃源郷も無かったけど収穫はあったな。」

「行ってみよう。」

「そうね。」

「今回は異論は無いよ。」

「エマはここで帰った方がいい。」

「いえ、私も行きます。帰り道とかわかんないですよね。」


 確かに道案内は必要である。


 コウイチは溜息を着いた。

「仕方ない。道案内宜しく!」

「任せて下さいコウイチさま!!」


 六人は木々の開けた道に入って行く。



 ーーノニ山、キバイノシシの通り道 ーー


「凄い、ここに来るまで一匹の動物も食用植物も見つから無かった。」


 キバイノシシは手当り次第に食べれる物を採っているらしい。偶に血痕や剥がれた毛皮が見つかる。


「面白いわね。」

 イクコが呟く。

「何が?」

「だってこの食べ方、獣にしては綺麗すぎるんですもの。ほら木の実とかだって綺麗に実だけを採ってる。余りに獣らしくないじゃない?」

「確かに、唯のイノシシと違って知能が高いのかな。」

「ああ、この世界はなんて面白いのかしら......」


 その時、先頭を歩いていたコウイチが止まって腕で自分達を制止した。


「巣だ。かなり大きい。気付かれ無いように静かに行こう。」


 そして草むらに隠れて中を覗くと自分達の身の丈程の大きな牙をもった体高三メートルに迫る巨大なイノシシ、標的のキバイノシシを見た。

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