第21話

 ーーノニ山中村、食料庫ーー


 食料庫を調べる。食物の類はきれいさっぱり無くなっていた。

「ここにはどれほどの食料が?」

 自分が訊ねる。

「襲われた日の昼頃には村人二十人が暫くは保つ量、重さで小麦が百キロは優にありました。」


 次いで地面を調べるが人の出入りもあり、こちらの痕跡は無かった。


「百キロ以上もの食べ物って食べれるの?」

 イナホが疑問を口にする。

「まあ普通に考えて無理だね。」

 自分は当たり前な回答をする。

「キバイノシシは一体でしたか?」

 コウイチが言った。

「はい、とても巨大な一体で、その穴の上の方にスレスレ位で横にも少し引っかかっていたと思います。」


「お父さーん、昼ごはんでき......あ、勇者様!?いらしてたんですか!?」

 ディアンドルに似たエプロンドレスを着た金髪ブロンドの少女が大きく空いた穴から顔を出した。


「ああ、紹介します。私の娘の《エマ》でございます。」

「は、初めまして勇者様方!!エマと申します!!お目々にかかれて光栄です!!」


 噛んだのだろうか。

「お目々。」

「なんか可愛いらしい挨拶になったわね。」

「.........」

「ブフッ、ククク......」

 アツシは笑いのツボに入ったのか吹き出して笑っている。



「とりあえず昼食にしましょう。お腹も空いたでしょうから。」



 ーー ノニ山中村、コンコ宅 ーー


「簡単な物ですがどうぞお召し上がりください。」

 エマは両手にお盆に乗せてパンとガルバンゾーひよこ豆の様な豆のスープを運んだ。

「ありがとうございます、けど食料は大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。余裕かと言うとそうでも無いのですが、実は......」

「実はオレの任務の半分はこの村に食料を届けることなんスよ。」

 フロロが割って入る。

「我らが王国では自然・魔物などの災害にあって生活が困難になる場合、申請が通れば食料や金銭などを支援する制度があるんス。ま、オレはその運搬の任務を負った、というワケ。」


 ククリア王国は世襲制の絶対王政である。

 世襲制、絶対王政は最上位に権力が集中し易い為に政治の腐敗がかなり起きやすい政治体制である。

 だと言うのに現代の民主国家のような国民弱者を想った政治をしている事は前世の世界の歴史から見ると有り得ない事である。

 この国は凄い。と、改めて思い知らされた。



 昼食を兼ねた五人の作戦会議が始まる。


「午後からは食料の採取も兼ねて山狩りに行こうと思う。」

 コウイチは提案する。


「ちょっと待って。流石に短慮に過ぎると思う。僕達は山について知らないし食べれるものについても同じだ。」

「......確かにその通りだ。ゴメン考え無しだった。」

「大丈夫、その為の作戦会議だから。」


「村の人を連れてったらどうだ?」

「そしたらその人が危なくない?」

「あ、そっか。アホかオレ。」

「あ、アツシの案良いかも。今も山に入って狩猟してる人が居るからその人に着いてきて貰えばいいんじゃない?」

「そうだ!それがいい!!......けど手伝ってくれる人は居るかなぁ......」


「お話は聞かせて貰いました!!」


 申し訳程度に仕切っていた暖簾のれんが勢いよく開かれた。


「エマさん!?」

「なーんかイメージ狂うなぁ。」


「その山狩りわた...わぷっ!!」


 舞って降りてきた暖簾がエマの顔に覆い被さる。


「......その山狩り、私に同行させて下さい!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る