第18話

 ーー 同日午後 ーー


 自分達は五人で町に来ている。

 実はストリクス王から一万ククリアウィット貨(パン一個≒十二ククリアウィット貨≒一二〇円)を三枚それぞれ与えられていた。

 なので訓練の終わった午後は城下町に降りて日用品の買い出しに行くことにしたのだった。

 唯の日用品位だったら与えられらてるだろうが、特に女性陣の化粧品類や衣服類は自分で選びたいだろう。


「俺は筆記用具と衛生用品揃えたいからちょっとここで別れるよ。」

「私はコスメとアクセ見てくるね。」

「オレは旅道具買いに行くから、じゃあな。」


「皆、気をつけてね。」

「.........」


 そして自分とイクコの二人だけになった。


 自分は家事などに使う小道具を揃えたかったのだが、調理器具は書いてあったが衣料用具はどこに売っているか貰った地図では分からなかった。


「...ねえ。」

「ん、どうかしたの?」

「どうせなら服屋に付き合って貰える?」


 服屋、そう聞いてふと閃いた。

 服屋の人に聞けば針と糸などの売っている場所が分かるに違いない、と。


「うん、良いよ。僕も用事が果たせるかもしれないしね。あ、でもその後は自分の用事に一寸付き合って貰ってもいいかな?」

「ンー......まあ良いわ。ちょっとした礼ね。」

「ありがとイクコちゃん。」

「だからちゃん付けは止めなさいと言っているでしょう。貴方もアツシあの馬鹿猿と同類なの?」

「それは......一寸困るね。」


 地図を見ながら人で賑わうククリア王都を行く。気を使ってくれてるのか手を振る人や声援をかける人は居ても呼び止める人は居なかった。

 この国の国民性はとても気遣いの出来る人となりの様だ。


「ここね。王城の使用人のお勧め《仕立屋アクリスAchlis's tailor》。顧客の年齢層、収入層が王都一広くてデザインセンスも良い。職場の正装から普段着、旅の服まで広く扱っていて、贔屓の仕立屋がないとりあえずで服を買うならここ、だそうよ。」

「入ってく人は女性が多いみたい。」

「安心なさい、ちゃんと男物メンズも有るらしいから。」

「自分は服を買いに来たつもりは無かったんだけどね。」

「女っぽい顔してても男でしょう。うだうだ言ってないの。」

「え、僕ってそんなに女顔なの?あ、ちょっと無言で行かないで!」


《仕立屋アクリス》の店内はマネキンや衣類が入った棚、飾られた服等がスッキリと纏まっていた。マネキンの配置によってどんな衣服の入った棚かが分かりやすい様になっていた。


(あ、男性服コーナー狭い。子供服キッズより狭いぞ。)



「いらっしゃいませイクコ様!ユキヤ様!どのような物をお探しでしょうか?」

「普段着が何枚か欲しいのだけれど。」

「それでしたらあちらの棚になります。ご試着もできますのであちらの試着室をご利用下さい。また、ご注文頂ければここに無い物や新しく仕立てたりできますので、御用の際はお声がけ下さい。」

「ありがとう。」


 比較的廉価な女性用衣服の棚にはワンピースやチュニック、木のボタンつきのシャツ、ガウチョやスカートが主な商品だった。たまに試作品なのか変わった形の服があった。


「むう......」

 服を見ていたイクコが唸る。

「どうかしたの?」

「ここの服ほんの少し大きいのよ。」

「とりあえず試着してみたら?意外にピッタリかもしれないし。」

「...それもそうね。一寸着替えて来るわ。あと、貴方も何か一つは買っていきなさい。少々店に失礼だと思うわよ。」

「確かにそうだ。ちょっと長いから髪留めでも買ってくることにするよ。」


 イクコは最下段から服を簡単に見繕って取り試着室のカーテンを閉めた。

 自分はアクセサリーの売り場を軽く見て藍色の紐を一つ手に取る。それとふと目に留まったピンクの薔薇の髪留めもついでに選ぶ。


「すみません、これ下さい。」

「ありがとうございます。一万ウィットのお預かりで九七二〇ウィットのお返しになります。」

「あと、すみません。針と糸を探しているのですが何処のお店に行けば買えますか?」

「針と糸でしたら此方でも扱っております。単品でも在りますが、持ち運びに便利な小箱も着いたセット品も在りますがどうされますか?」

「値段はどうです?」

「長針が一本六ウィット、短針が五ウィット、糸は十メートル一巻で全色一律に十三ウィットとなっています。セットは針が五本ずつ、赤、白、黒、茶の糸が一つずつ、他ハサミなど便利な道具が入って百十ウィットのお得なセットとなっております。」

「じゃあセット一つでお願いします。」

「お買い上げありがとうございます!」


 無事、裁縫用の小道具は最低限分は揃った。


 するとカーテンが開いてイクコが出てきた。確かにイクコの細い脚はスカートの幅と不釣り合いであり、ワイシャツの袖も余って垂れている。


「やっぱりデカいわね。」

「そうみたい。ごめんねイクコちゃん。」

「かと言って子供服は小さすぎるし...店員さんに聞いてみましょ。御免下さいそこの店員さん。」

「何か御用ですか?」

「彼処の棚にサイズの合う服が無いのだけれど、ここに出て居ない物を見せて貰えないかしら。」


 一斉に辺りの従業員の目が光った気がした。


「お任せ下さいませ。こちらで幾つか見繕って持ってきます。」


 今他のお客さんの応対している者を除いて全ての従業員が奥へと引っ込んだ。


 ーー 約十五分後 ーー


「大変お待たせしました。こちらなどどうでしょう。どうぞ着てみてください。」


 服を持って列になっている女性従業員の一番前がロリータ調のドレスをイクコに着させる。

「「キャーー♡!!!!」」

 着させた女性従業員が失神する。


 これと似たような光景がこの後一時間程続いた。


 その中で......

「ユキヤ様!!こちらをお召になって下さい!!」

「え゛......」

 数人に自分も服を着させられたが、渡された服はどれも中性的なものだが、明らかに女性用だった。


「さて、どれにしようかしら。」

 結果的に(イクコを着せ替え人形として着せて)山となった服を見て心労の溜息を吐きながら考える。

「「全部どうぞ!!」」

「こんなに買えないのだけれど......」

「「どうぞ無料タダで差し上げます!!!!」」


 イクコは助けを求めて自分に視線をやった。


「そもそも持ち帰れないしね。」

「「王城まで郵送します!!!!」」


 イクコに困った様に視線をやる。イクコは大きく溜息をつき......


「分かりました、全部貰いましょう。......ハァ」

「「ありがとうございました!!またの御来店お待ちしております!!!!」」


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