第14話

「ハア、ハア、ハア......」


 恐怖に身体が震えて息切れもしていないのに呼吸が荒くなる。


 俺は迷宮の入口すぐ近くの部屋の隅で座り込んでいた。


 地球に帰りたい。いや、既に地球だと死んでいるんだった。

 もしかしたら死んでもまだ次があるかもしれない。そしたらそこで今度こそ.........



「いや、今がもうその今度なんだ。それが......」


 今やこんなことに。アイツストリクス王のせいで。そうだ、アイツのせいだ。俺の異世界生活をメチャクチャにしやがって!!


「くたばる前に、アイツをぶっ殺さないと、死に切れねぇ!!」


 右手に鉄の剣を、左手にもう一本、闇の聖剣を抜いた。一度みっともなく駆けた道を逆方向に駆け抜ける。


 大型犬の魔物が今度は四匹の群れで立ち塞がる。


「どォけえええぇッッッ!!!!」


 二本の剣を脇に構える。その時二本の剣の刀身は闇に包まれていた。


 前足を強く踏み込み反対の足を身体ごと大きく回し三体の犬型魔物を同時に横凪にする。


「グゲァ!!」


 三体の魔物は間二つに両断された後、切断面に残った黒いモヤに侵食され塵と消えた。


 剣を振った勢いそのままに走り続ける。しかし、犬の魔物の群れを凪いでから三百メーターほどもしたあたりで腹の虫が鳴いた。


「そういえば、放り出されてからどれぐらい経ったんだ?その間何も食って無かったが......」


 王城から追い出された時に渡された鞄を漁る。

 中には着火魔法具、超圧縮寝袋、保存食や飲料と四角い白い包みが入っていた。


「なんだこれ......?」


 白い布を解いていくと中には金属の箱が入っていた。


「弁当?誰から......」


 一緒に包まれていたフォークで一口、中の肉を運ぶ。

 ただ驚いた。

 これまでのどんな料理よりも手間が掛かっていた。そして、料理人の思いが込められていた。

 この料理は間違いなく料理長のものだ。

 涙が自然と溢れてきた。

 最後の一欠まで言葉は無く、ただ感謝と感動でいっぱいだった。


「.........ご馳走様でした、ふぅ。」


 手を併せて最大の感謝を示す。決して通じないと知っていても。


「また一つ、どうしても此処を出なくてはいけない理由が出来たな。」


 クロトはまた進み始めた。一歩一歩、踏み締めて、さっきのような真っ黒な感情に任せた自棄な走りでは無い。


 覚悟の決まった顔をしていた。








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