第10話

 王属騎士の詰所で彼らと昼食を取った後の午後、自分達は小会議室へと集められた。

 小会議室は黒板と時計と一つの大きな机と木の丸椅子が幾つかあるだけの簡単なものだった。


 時計が二時半を指した頃、扉が開かれ奇抜なピンク髪が眩しい女性が現れた。


「どーも、はじめまして✩勇者の皆さん。ワタクシ王属魔術師長のアイラ・アイラインと申しまーすぅ。どーぞよろしくぅ☆」


 なんだこれは。


 外見は所謂カワイイ系に分類される美人さんで、王属魔術師長でもあるらしいのだが、フリフリの服にピンクの髪、奇抜なポーズと台詞が思考を奪う。


「は、はじめまして、アイラさん。光の勇者コウイチです。よろしくお願いします。」


コウイチは戸惑いながらも挨拶を返した。四人も続く。


「火の勇者アツシだ!」

「氷の勇者のユキヤと言います。」

「雷の勇者イナホです。」

「緑の勇者イクコ。」


「ウンウン。こちらこそよろしく☆」


アイラは満足そうに頷くと、チョークを持って黒板に何かを書き始めた。


「ちょっと確認なんだけど、これは読めるかな?」


黒板に書かれたのは文字の様な模様の様なもの。概形としてハングル文字に近いだろうか。当然、読める者はいなかった。


「やっぱりね。ここの世界はこの文字を使っているの。一つから三つの因字ファクターを組み合わせて一つの物や動作を表す物字マテリアルを作る文字、これを因成文字いんせいもじと呼ぶの。因みに、黒板の文字は糖の因字と結晶の因字と大の因字を組み合わせて作られた《飴》の物字だね。という訳で、感心している皆に飴ちゃんのプレゼント〜!!『キャンディ☆バレット』!!」


アイラは腰から抜いた短杖ワンドを杖先で円を描くように振った。

すると、自分達目掛けてビー玉サイズの鼈甲飴が勢いよく飛んで来た。

皆手で掴んでいたが、アツシは口でキャッチしようとして歯に当たって口を押さえて唸り声を上げている。


「この因成文字は魔法の仕様にも便利だから覚えておいてね☆はいこれ、因字一覧☆」


アイラが差し出したのは辞書ほどもある分厚い本だった。


「あ、いっけなーい☆これも言わないといけないの忘れてたー☆。この世界では因成文字と一緒に音字おんじも使われてるの。これないと読めないからね。」


渡されたのはポップで小さい子供向けの絵が書かれた教育本だった。ご丁寧に音声が再生される機器魔法道具付きだ。高校生がこれを読むのかと、肩を落とす。


「ワタシは魔法の教育担当だけど文字が分からないとはっきり言ってムリ☆......だから、しっかりと着いてきてね★」


その後、六時まで言葉の授業は続いた。

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