第3話

「わぁ」

 感嘆の声が漏れる。


 誰が言ったかは解らないが、その気持ちは重々理解出来る。何せ真っ白なシルクのテーブルクロスの被さった大きな長机。幅一点五メートル長さ三メートル程だろうか、その一面に何かのスープらしき料理や鳥の丸焼き等が、まるで雪原に構える大きな城下町の様に、所狭しと並んでいた。


「さあ君達、どうぞ召し上がれ。遠慮は要らん。六人で自己紹介も出来ていないだろう。儂は後で聞かせて貰おう。言ったろう、今日は無礼講だ。」


「あ、えっと...お気遣いありがとうございます。正直、余りの豪勢な食事に圧倒されていました。頂きます。」


「ああ、そう言う事でしたか。どうか勇者様方の御口に合えば良いのですが。料理長も喜びます。」


 そうだ、料理長。

「そう言えば、その料理長はどちらに?」


「料理長ですか?彼は料理の腕も良く、人も良い人格者ですが人前に出るのが苦手で。何処かに隠れていると思います。まあ会食の余興と思って探してみてください。人を喜ばせる事が好きな人ですから、何処かからこっそり観てる筈ですよ。」


「へぇ、面白い方なんですね。」


 ジゼルは「えぇ」と、嬉しそうに頷いた。


「では、儂とジゼルはそろそろ外そう。暫くしたら玉座赤道の間にて謁見の儀を行う。その時迄ゆるりとするといい。」

「では、勇者様方、後ほど。」

 と言ってストラクスとジゼルは大食堂から出た。


 少しばかり沈黙が六人を覆っていた。


「取り敢えず席に着きましょう。まだお互いの名前も知らないのですし。」


 ポニーテールの少女はそう言って角の方の席に座った。小柄な少女はその隣、少女たちの対面には男三人が座った。自分は小柄な少女の隣で、所謂女子列の端っこに着いて何となく肩身が狭く感じるのは日本人だからなのだろうか。


『頂きます』


 六人は声を揃えた。控えている兵士の人は一瞬不思議そうな顔をしていたが、まあそういうものなのだろう。と、納得した様子だった。



 自分達は豪勢な食事を口に運んだ。因みに食器は少し三又の捻れたフォークと半球状の深いスプーンと軍刀ティックな飾りのナイフだった。


「これは...」「おお...!!」「美味ぇ!!」「っ美味しい」「......!」「面白い!」


 六人は、六色でだが、皆驚いていた。食材も料理長の腕も、成程、これは一流物だろう。頬が蕩けるとはこういう事なのだろう。


 暫く食器どうしの当たる音とご馳走を食べる音のみの沈黙だったが、先程の気まずさはない。皆食べるのに夢中なだけだ。


 ふと気付く。大きな花瓶の裏に人影がポツンとあった。草花の茎の隙間から見ているのだろうが、此方から顔は見えない。恐らくアレが件の料理長なのだろう。


「料理長さん、ありがとうございます!!とっても美味しいです!!」


 自分は少し大きめの声でお礼を言った。

 人影が動いた。何となく、嬉しそうな感じがした。


「あー、彼処に居たのか。わからんかったわ。」


 逆毛の少年は少し悔しそうに呟いた。


「粗方食べ終わったし、六人で自己紹介でもしよう。俺は日向ヒムカイ光一コウイチ。コウイチだが高校二年だ。宜しく。」

 亜麻色の髪の少年は光一と言うらしい。歳は一緒だがギャグのセンスはオヤジ級らしい。


 次に逆毛の少年が立った。

「俺は火山ヒヤマアツシ!!今年で十六、趣味はゲームとマンガとスポーツだ!!魔王退治頑張ろうぜ!!」

 まあ熱い、又は暑い男だと思った。


「なら次は私ね。名前は打雷ウチカミ稲穂イナホ。高校二年で陸上部をやっていたわ。」

 ポニーテールの少女は言った。此方も同い年らしい。


「それじゃあ僕だ。雪郷ユキザト幸也ユキヤ後一週間で十七歳だった。えーと、小説が好きな典型的文系男子だよ。宜しく。」

 自分は当たり障りの無い順番に当たり障りの無い自己紹介で済ませた。正直、他の人と、大差は無いはずだ。唯、小説が好きと言ったら何故かアツシは「うへぇ」と言っていた。


「俺は墨田スミダ玄人クロト俺も高二の十七歳だ。趣味は......俺もゲームかな。」

 黒髪の少年はクロトと言うらしい。内容も割と被っている。


 視線は小柄な少女に集まる。


「私?まあいいわ。緑森ミモリ育子イクコ。十四歳で園芸部。前世の死因は母親からの虐待よ。」


 また、沈黙が六人を支配した。

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