第2話
「何、こんな石床の部屋で座っていては尻と腰を痛める。秋も半ばだ身体も冷える。少し遅めの昼食としよう、伝説の六勇者が来る日だ。料理長も気合が入っていた。今日ばかりは無礼講である。」
成程。この大理石は腰に悪い。十七間近と言っても辛い物はある。
「すみません。一つ良いですか?」
右の手を挙げポニーテールの少女は尋ねる。
「良かろう。」
「ありがとうございます。ここは王国と聞きました。察するに貴方はこの国の王様、と捉えても宜しいですか?」
「あぁ、あぁ、そうだった。私とした事が名乗るのを忘れていた。髪の色と共に記憶が抜けていくのだから歳を取るのは辛い。」
老人は老いの自嘲混じりに、しかし老いを余り感じさせない重みのある笑い声を上げた。
「ああ、そうとも
「ありがとうございます。ストラクス王。」
「有無。ゆっくりと君達の事も聞きたいモノだが.........」
ちらりと後ろにアイコンタクトを送ると、一人だけ明らかに他の鎧の兵士と違う、四十半ばであろうか、金髪の男の騎士が頷いて応えた。
「はい、王陛下。そろそろ頃合でしょう。料理長も若き勇者達を
「ありがとうございます。ジゼルさん。」
亜麻色の髪の少女は短く二十度程度の礼をしてジゼルが歩き始めた所に着いて行った。
「まァ、無用心に過ぎないかしら」
小柄な少女は初めて口を開いた。
「ここの事も良く解らないよ。何も知らず外に出るよりはマシじゃない?」
自分は彼女にそう答える。少し嘘をついた。ホントは自分は人々が讃える煌びやかな自分を期待しただけなのに。そんな理屈は出任せだった。
そんな事は知る由もなく少女は、「ま、それもそうね。」と納得し気丈に後について行った。後は自分ともう一人、平凡そうな少年だけ残った。
彼は喜色と躊躇いと、期待と不安と諸々のぐちゃぐちゃに混ざり、一周まわった呆けた表情で突っ立っていた。
「ほら、行こう。腹が減っては、だよ。」
と、軽く肩を叩いて言った。
彼はハッとして現実に戻り頭を振り言った。
「あ、あぁそうだな。うん、ありがとう。」
「いいよ。僕も少し浮かれてたり、不安だったりしてるから。だって、伝説の勇者、だからね。」
「勇者.........俺が勇者かぁ......」
自分達は軽く笑いながら、少し早足で、石膏の彫像と大理石の太い柱の並ぶ広く長い廊下を追いかけて行った。
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