注文の多いお母さん

 

 ぼくのお母さんは注文が多い。もう注文が多いなんてもんじゃない。散らかしたらすぐ大きい声でどなるし、きちんとごはんを食べないともう、言葉にできないほどなんだ。

 でもそれは仕方がないことなんだ。

 だって、ぼくのお母さんはぼくの本当のお母さんじゃない。

 ぼくはお母さんの本当の子どもじゃないんだ。

 ぼくはお母さんがぼくの本当のお母さんじゃないと知ったときから考えていた。ぼくたちはいっしょにいるべきじゃないんだ。

 そして今日、ぼくは家を出て行くことにした。

 家出をするのだ。


 まだぼくの知っている道を歩いているのに、家出するとなるとなんだかいつもの道もすごくへんな感じがする。わるい感じじゃない。むしろいい感じだ。

 でも、知らないところにいかないといけない。お母さんはぼくの行き先をよく知っているし、なにより、ぼくのともだちにばかにされそうだった。ぼくのともだちには少しいやなやつがいて、おれはこんなに遠くまで行ってきたぞ、お前はそんなに遠くまで行ったことがないだろう、ってえらそうにするやつがいるんだ。

 そんなことがあったから家出をしようとか考えたわけじゃない。ぜったいにちがう。

 ぼくはまだ行ったことのない細い道に入っていくことにした。

 細い道はずっと細くて、なんだか暗くて、先にすすむのがいやだった。でも、ばかにされるのがいやだし、もうすでにそれはおそいことだった。後ろを見ると、もうどこから来たのか分からなくなってしまった。ずっとまっすぐ来たんだから、まっすぐ帰れば帰れるはずだけど、もしもまっすぐ帰って帰れなかったら、と思うと、もうこわくて帰れそうになかった。

 でも、これでいいのだ。昔のえらい人は言ったんだ、ってろっくばんどが言ってた。

 だってぼくは家出をしたんだから。もう家には帰らない。

 ぼくは一人で生きていく。なんだったら、本当のお母さんをさがしてもいい。あのひとのママに会うために、電車でGOなんだって、ゆーみんが言ってた。ほおきに乗って言ってた。

「そうだ。電車に乗ろう」

 でも、ぼくには電車にのる場所がわからない。なんだかやっと細い道から広い道に出てほっとはしているけれど、どうやったら電車にのれるんだろうか。

「ねえ、きみ。どうかしたのかい?」

 ぼくはだれかに声をかけられた。ラッキーだと思った。だれかに道を聞けばいいんだ。

「まあ。思った通り、かわいいこねこちゃんだこと」

 ふりかえったぼくの顔を見て、おじさんはそう言った。

 ぼくはそんなおじさんを見たしゅんかん、これはとってもいやなよかんだと思った。

「こんな時間にどこかに行くのかな? もうすぐ暗くなっちゃうよ? そうだ。こんばんはおじさんの家にとまりにきなよ。おいしいおかしをたっぷりあげるよ」

 お母さんが言ってた。こんなことを言うのはふしんしゃだって。そして、このちかくにはしょたこんのおじさんが住んでるって言ってた。きっとこのおじさんがそうだ。

「い、いらないよ! ぼくはこれから――」

 帰る? どこに? もう帰らないって決めたしもう帰る家もない。

 いっそおじさんについて行ってしまおうか。おかしも食べたいし。そろそろおなかがへった。しょたこんのおじさんならお母さんみたいに注文が多くはないだろう。もしかしたらもっとしあわせにくらせるかもしれない。

 でも、やっぱこのおじさんだけは無理だった。目をキラキラさせて、よだれなんてたらしちゃって。とってもだらしないし、とんでもないことを考えていそうなのがよくわかる。

 だからぼくは走ってにげた。

 どたどたどた。

 おじさんが追いかけてくる、大きな足音が聞こえた。

「待ってくれよォ。オイラのかわひぃくわひぃこぬえこちやあああああああんっ」

「いやだ! なんかいやだ!」

 ぼくは本気で走っているけれど、おじさんの方が早い。でも、つかまるわけには――

「ぐひゅひゅ。つかまえたぁ。おじさんつおぉ、いいことしよおねっ!!!!!」

「助けて! お母さん!」

 ぼくはさけんだ。お母さんをよんでいた。もう会わないと決めていたのに。

「ぬふ。助けをよんでもだれも来ないよォ。この時間はだれも来ないから。おじさん、よく知ってるでしょ」

 おじさんがぼくのおなかにさわってくる。なんだかとってもぞっとした。

「お母さん! 助けて! お母さん!」

「みーくん!」

「お母さん!」

 お母さんの声が聞こえた。おじさんのうでがゆるんだ。このすきにぼくはおじさんからにげた。

「みーくん!」

「お母さん!」

 やっぱりぼくをよんだのはお母さんだった。お母さんは走ってきたぼくを思いっきりだきしめてくれた。

「こんな時間に外に出て! 何してるの!」

「ごめんよ。お母さん」

「こわかったわね。あれほどしょたこんには気をつけなさいといったのに」

 やっぱり、ぼくのお母さんは注文が多い。だってそれはぼくの本当のお母さんじゃないから。でも、ぼくのお母さんはきっとぼくの本物のお母さんよりもやさしくだきしめてくれる。

 ぼくのお母さんは本物のぼくのお母さんじゃないけれど、ぼくの大好きなお母さんだよ。


 あとがき


 駄作だなァ、オイ。

 全くの駄作である。クソだな、これは。ダメだダメだ。

 ただ子猫が家出しただけじゃねえか。飼い主は本当に過保護だなあ。

 今作の裏設定としては、しょたこんのおじさんの名前は竹内緋色と言います。まあ、現実でもこんな感じの変態紳士なのですよ、はい。いや、ちっとも紳士じゃねえな。

 あ、あと、私、お母さんいないんですわ。八歳の時親が離婚しましてね。

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