第35話 離日


次の日の、昼間の便で、モンペリエ・バレエ団の団員たちが離日すると、佐川悦司は聞いて、空港に駆け付けた。


設楽しおりに会わなければ…。


好きな女性の、気弱な状態は、佐川悦司の心を、急がせていた。

ただ一目でも…会わなければ。


何も言わないまま、しおりの電話は切れた。


しおりの嗚咽が、昔の恋心を燃え上がらせていた。


国際線のロビーを悦司は探した。

パネルがカタカタと回って、搭乗案内が告知された。


金髪の集団の中に、一人だけ、栗色の髪の女性を見つけて、

「しおりさん!」

悦司は、走り寄った。


しおりは、悦司の姿を見つけると、

弱弱しく手を挙げた。


「しおりさん、大丈夫だから。」


何が大丈夫なのか、考える前に、そういう言葉になった。


「大丈夫だから!」


しおりに、声を掛けたくて、大声が出た。


彼女を慰めたい…。その声が、彼女に少しでも届けば…。


しおりは、搭乗待合室の中に消えた。


エールフランスの機影が消えるまで、悦司は、屋上に立ちつくしていた。



―つづく―

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