第29話 五月二十五日(1)


佐川悦司は、目覚ましの音で、昼近くに目を覚ました。

五月二十五日は、日曜日だった。

今日は、東京オペラハウスでのバレエ公演を見に行くと、三沢えりこと、約束した日だった。


三沢えりこは、「ERIKO」というブランドを、担当していた。

デザイナー集団オライオンの中の、新鋭として、活躍していると、携帯スマホで近況報告があった。


公演は、夕方からだった。


悦司は、リビングのテレビをつけた。

ニュース報道で、「光の子教団」のことが報じられていた。

「招魂大集会」という、代々木の集会を目指す人々の群れが、さまざまな地点で捉えられていた。

「メシアの招魂をみんなで実現させよう」の横断幕が、大々的に映し出された。


悦司は、トーストを食べながら、その映像を見ていた。


今日の午後三時に、みんなで、祈りを捧げましょう。


蔵知ミサの映像が、映し出され、

それから、行進の集団の中に、学生時代の同級生の顔を見た。


あいつも…?


現実主義だと言っていたのになあ。


遅い食事を済ますと、悦司は、靴を磨き始めた。

設楽しおりとの再会に、埃のついた靴など考えられなかった。


設楽しおり…。

その名前は、随分昔のようで、悦司の胸を締め付けた。


あの頃は、彼女のことが一番だった。

今でも、彼女のことを思い出すと、近づきたくて堪らない衝動が、込み上げて来る。


その彼女に、今日はまた会える。


悦司は、準備を整えていく度に、自分の気持ちも高まっていくような、気になった。


タキシードは、半年振りだった。


身支度を整えて、ミラーで全身を確認すると、悦司は、車のキーを取った。



―つづく―







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る