第28話 邂逅
佐川悦司の仕事は、順調だった。
室長の井沢は、悦司の仕事を覗き込んだ。
「へえ。玩具堂の新商標は、GANGOOか。」
まだ、小さい仕事しか与えられなかったが、井沢は、「面白いね」と笑った。
GANGOO PARADISEというキャッチコピーで、湾岸センターでの、おもちゃメッセに出す。
井沢は、口頭で指示を発した。
井沢は、まるで錬金術のように、悦司のアイデアを、より発展的に展開させていった。
他の部署から上がってきたアイデアを、十人の社員に振り分けて、どっかと、室長の椅子に腰掛けた井沢は、有能なアイデアマンだった。
じゃ、高成(たかなし)くん、君の意見を聞こうか。
五年目の高成が、ボードに、自分のアイデアを、書くと、井沢は、笑った。
おいおい、それじゃ、十年後のアイデアだよ。
コアゾ恵比寿…
といいながら、
じゃあ、コアは、活かそう、と、相槌を打った。
高輪コアシティパーク。いいねえ。
これにしようよ。
井沢は、高成が頷くと、はい、次に行こう、と、次の社員に発表を促した。
毎日は、こんなふうに目まぐるしく過ぎていった。
「リンケージルーム」
悦司は、そう名乗ると、他の社員が、一目置くのを感じて、快感だった。
井沢は、「天才」として、破格の給与を与えられ、社の株式の5%を保有しているという噂だった。
その日も、退社した悦司は、駅へ向かっていた。
黒いセダンの車列が、悦司の後を、ゆっくり追っていた。
「お久しぶりね。」
宇津見凪子が、それだけを言い残すと、車列は、再度速度を上げて走り去った。
相変わらずだな…。
悦司は、その車影を、見送った。
―つづく―
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