第26話 配属


佐川悦司は、翌日N通玄関の掲示を見た。


「リンケージルーム配属」


リンケージルームは、N通本社ビルの23階にあった。

建てられたばかりのN通本社ビルは、清潔な印象を悦司に与えていた。


入室しようとすると、後ろから、ポンと肩を叩かれた。


「よろしく!」


背広を粋に着こなした社員が、悦司に笑いかけていた。

「君、新入社員だろ。」


悦司は、

「佐川悦司といいます。」と、会釈した。


俺は、井沢継受(いざわけいじゅ)。男は、名を名乗ると、悦司を部屋に招き入れた。


「みんなー。新入社員さんだ。」


井沢は、リンケージルームの室長だった。


窓際にしたよ。君の席。

東京タワーがよく見えるだろう?


井沢は、女子社員の渡辺えりかに、悦司を引き継いだ。


渡辺えりかは、悦司に、簡単な説明を始めた。


「ここは、N通の、血管のようなセクションよ。」


色んな部署から上がってきたアイデアを、現実社会に適合、具現化する機能を果たしているの。


そして、また、このルームでの観点を加えて、部署に還流する。


私達は、いろんなセクションの意見を、より、高度に統合して、社会に反映していく。そのためにあるの。


「リンケージルーム」


いわば、影の参謀たちなのよ、わたしたちは。


えりかの説明に、悦司は、自分がそのような部署に配属された理由がわからなかった。


「自覚がないのね?君は有能と認められたんだよ。」


えりかは、いたずらっぽく笑った。


他の社員も、クスクスと、えりかの言葉に笑いだした。

悦司は、自分のどこが認められたのか、わからないままだった。



―つづく―

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