第22話 扉の女


佐川悦司は、マンションから出たところで、女と出くわした。

上沢(かんざわ)みつよ、という布教活動をしているという女で、

「よかったら、読んでください。」

と、二冊の冊子を差し出した。


冊子には、「光の子教団」と書いてあった。


わたしたち、誰にでも、光りは射しているのです。

ただ、わたしたちの眼に、映らない。

それが、わたしたちの不幸を示しています。


上沢は言った。


わたしたちの眼を、光を感じるよう、主は導いてくださいます。


悦司は、苦笑いをして、「まいったなあ。」と心中で思った。

あの教団だ…。

最近、首都圏で、活発化しているという教団のニュースは聞いたことがあった。


メシアは、もうすぐ降臨なさいます…。


招魂大集会を、五月二十五日に代々木で行いますので、是非いらしてください。


悦司は、「いや」と、丁重に断った。

冊子も、受け取ることを、拒否した。


ああ、ギリギリの時間だ…。

間に合うように、出かける用意をしたのに、上沢の相手をしていて、時間を食ってしまった。


なんで入ってこれたんだ?


セキュリティに文句言わなきゃなあ…。


地階のガレージの車のエンジンを掛けながら、悦司は、黒いセダンが、前を過ぎっていくのを見た。

その後を、もう一台の車が追走していく。


その車には、チラリと、女性の影があった。


宇津見凪子…。


悦司は、言葉を失った。



―つづく―

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