第19話 抜擢


佐川悦司の不信は、三沢えりこの、変わり振りにあった。


だが、宇津見凪子とのハグを目撃した時、何かの謎が解けたような、気がした。


政界の動きと、宇津見凪子の動き。

ニュースを見ながら、高塚の言葉を思い返す。


凪子は、三女でありながら、上の姉たちを抜いて、後継者としての位置を摑んでいるんだ。


上の姉たちは、結婚して、別の姓を名乗っていた。


「秘蔵っ子なんだよ、凪子さんは。」


昔から、パーティの中に混じっていてさ。

凪子の話が、悦司の周りで盛んに思い出話のように、語られていた。


「コロナグループ」


コロナ石油の創業者も、凪子さんを推したらしい…。


凪子は、マザー佳代の後継者として、階段を駆け上っていくような、勢いだった。


悦司の前を、黒いセダンが、また過ぎった。

セダンは、悦司を追い越して、止まった。


喪服の凪子が、車窓に見えた。



―つづく―

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