第18話 喪服


佐川悦司は、悪夢を見ているような、気に成った。

三沢えりこは、まるで、顧客を扱うように、宇津見凪子を送り出すと、また、東京スカイの中に消えていった。


茫然としている悦司の横を、救急車が走り去った。


「なんだ知らなかったのか。」

高塚は、事情通だった。

「宇津見佳代が死んだんだよ。」


宇津見啓介の妻の佳代の悪評は、時折、悦司にも聞こえてきた。

「なんでも、組閣にも口を出すとか、言われててさ。」

マザーって言われる程の、裏の影響力は、「メンドリ」とも揶揄されていた。

しょうがないよな。明治の大老、向井顕名(むかいけんめい)の血筋で、宇津見啓介を、時期首相に推せるのは、彼女しかいないだろう…と言われていた。


「大変なことになるぞ。」

高塚は、悦司の肩を叩いた。


佳代が三か月前から、病院に入院していたということは、政界一部しか知らない極秘事項だった。


「凪子さんは、どうだった?」

高塚は、興味深げに、悦司に聞いた。


「気落ちしている感じはなかった。」

そうか、と高塚は、頷いた。

「凪子さんを佳代さんのポストに抜擢しようという動きがあるらしい。」


あの人なら、やりそうだな…。


悦司は、政界の動きを、高塚の言葉で感じた。



―つづく―

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