第13話 謎


佐川悦司は、「αカード」の会員になった。


ある日、三沢えりこから、悦司の携帯スマホに電話があった。

三沢えりことは、ずっと連絡が取れないままだった。


「設楽しおりさんのこと、知らない?」


えりこは、その事だけど…と、言葉を濁した。

「わたしにも連絡ないままなんだ。」

悦司は、その言葉を信じきれなかった。


一家は、煙のように、消えてしまった。

引っ越し業者は、倉庫に預けるようになってますから…と、言うだけだった。

消えてしまったしおりのことを、悦司は、忘れられなかった。


「それでね、今度、友人とショーするんだ」

えりこは、よかったら来てと、言い残した。

「ファッション賞の新人賞にノミネートされたんだ。」


頑張ってるね、という悦司の言葉に、えりこは、「じゃあ。」と、電話を切った。


凪子から、携帯スマホへ電話があったのは、その後だった。


「どこで、僕の番号を?」

凪子は、「さあ、どこでしょう?」と、電話の向こうで笑った。


「今度、オペラ座の公演があるんだけど…。」

凪子は、用件を切り出した。


「あなた、来なくちゃダメよ。」

さらに、凪子は、有無を言わさぬ口調で、言い募った。


「チケットは、秘書に届けさせるわ。」


それだけ言うと、凪子は電話を切った。


謎だらけだ…。


悦司は、深まっていく謎に翻弄される自分を、叱咤した。


どこかで、凪子の哄笑が響いているような、そんな夜だった。



―つづく―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る