第11話 秘密
佐川悦司は、設楽しおりの家に向かった。
だが、しおりの家の前に、引っ越しトラックが停まっているのを見た。
「しおり!」
悦司は、荷物が運び出されるのを、ただ黙って見ているしかなかった。
「あの」
引越しの係員が、振り向いた。
「ここの家族は…」
係員は、もういらっしゃいませんよと、答えた。
佐川悦司の狼狽を、黒いセダンが見ていた。
「そうなるでしょうね。」
車中の影が、面白そうに笑った。宇津見凪子だった。
悦司の恋は、突然の終幕を迎えた。
「設楽しおり」の行方を調べて欲しい…。
興信所の男は、一応調べてみますが…と言葉を濁した。
「こういった事案は、一番困難な事案でして…」
「ご期待に添えるかどうかは、わかりません。」
悦司は、しおりの行方を追えなかった。
悦司のマンションに、その後、経済セミナーのDMが多数舞い込むことになった。
「まあ、広告代理店に決まったから。」
悦司は、それを当然のことのように受け止めた。
テレビTのディレクターが、来るセミナーがあるんだって。
セミナーへ出席しようとする、悦司を、車中から、凪子が呼び止めた。
うるさいクラクションに、振り向いた悦司に、
凪子は、笑いながら、言った。
「秘密は、解けた?」
悦司は、その言葉の真意を摑めなかった。
ふふ、と凪子は笑った。
「行って。」
運転手に言い放つと、パワーウィンドウをスーッと上げて、車を発車させた。
凪子が何を知っているのか…。
得体の知れない大きな何かが、悦司に覆いかぶさってくるような、
そんな出来事だった。
―つづく―
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