第9話 凪子


宇津見凪子とは、パーティで時折、出くわすことがあった。


その都度、不快な体験が、悦司に募っていった。


「あなた気に食わないわ。」


悦司に、凪子はいった。


悦司は顔色一つ変えずに、聞き流した。


「今度ね、政治家のジュニアを集めた、リゾートキャンプを企画しているの。」

「あなた、来る気あるかしら?」


悦司は、しおりと夏を過ごす予定でいた。

悦司は、

「予定がありますので。」と、その場を後にした。


悦司は、夏休みに入って、また三人での友情旅行を企画していた。


毎朝、川添三丁目の設楽しおりの家の前を通り、

しおりの行きつけの本屋などを巡って、家に帰る。

時には、市立図書館のしおりの席の真向かいに座って、楽しい夏を過ごしていた。


黒いセダンが、R市に訪れるようになったことを、悦司は知らなかった。


パワーウィンドウがスーっと降りて、

車内の女が、じっと悦司の行動を、眺めていた。


宇津見凪子…。

彼女は、悦司としおりを、興味深げに、見詰めていた。


それを、悦司は、迂闊にも、気付かなかった。



―つづく―

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