第5話 友情


設楽しおり…。


なんて、素敵な名前なんだろう。


佐川悦司は、しおりを見送ると、別方向に歩き始めた。


バレエ教室の近くに停めた車に乗り込むと、市会議員の父の家に帰った。


「あら、悦司さん、丁度よかったわ。」

母は上機嫌だった。

「市長の御嬢さんが来られているの。ご挨拶して。」


悦司は、人並み外れた美貌だった。

「お邪魔しております。」

市長の娘は、悦司の顔を見ると、少し顔を赤らめて言った。


悦司は、少し会釈をして、部屋へ戻った。


机の、ノートに、

「設楽しおり」

と、書いて、今日の収穫に酔った。


設楽しおりに、自分はどう映っただろう…。

彼女は、自分のことを、近所の住人だと思っている。

接近は、思ったより容易に進んだ。


それから、悦司は、毎日、川添三丁目へ、赴くようになった。


設楽しおりは、悦司の顔を見ると、軽い会釈をした。

「やあ。」

悦司は、近所を装って、しおりの情報を仕入れると、しおりの行く先々に、偶然を装って、近づいていった。


「皆川さん」


しおりは、全部嘘だと気付かずに、悦司に接していた。


「悦司さん、でいいですよ、しおりさん。」


二人の間には、親しい知人としての会話が交わされるようになっていた。


「友達のえりこです。」


三沢えりこに紹介されたのは、しおりの行きつけの喫茶店だった。

ボブヘアのえりこは、デザイナー志望だった。

もうすぐ、東京のデザイン学校に進学するんだ…。

男勝りの性格を滲ませながら、えりこは、自信満々だった。


えりこが、加わり、三人は、仲良しグループのような、関係性を持つようになっていった。


三人の友情めいた関係。


悦司は、それを、しおりに接近する好機と考えていた。



―つづく―


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