第4話 発展


佐川悦司は、売り場を離れる彼女を、密かに追った。

彼女は、ハンカチを選んだり、バッグ売り場を覗いたりしている。

悦司は、彼女に声を掛けられなかった。


好機は訪れた。


彼女は、傘を買って帰ろうと、M越の玄関に向かっていた。


悦司は、向かってくるショートヘアの女をやりすごしながら、

「あの!」

と、声を掛けた。


彼女は、その声に驚いたようだったが、

悦司が、手を振ると、その場に立ち止まった。


「何でしょう?」

R市川添三丁目の設楽さんじゃありませんか?


悦司は、彼女に、近所の住人のように、降る舞った。


「…そうですけど。」


「同じ町内に、いる皆川です。」


嘘がすらすらと、出てきた。


「お茶でもどうですか?一緒に帰りましょう。」

言いながら、近所に住んでいれば、こんなことも出来るんだな、と、近所の男が妬ましくなる悦司だった。


「僕、皆川悦司といいます。」


「設楽さんのお名前は、何でしたっけ。」

忘れた振りをして聞くと、彼女は、

「設楽しおり」って言うんです、と、答えた。


それから、悦司は、彼女の近所の振りをして、彼女から、色々な情報を聞き出すことに、成功した。


「僕、しおりさんを送っていきます。」


しおりと、近づけたことが、悦司はうれしかった。



―つづく―

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