第3話 ファーストコンタクト
彼女は、M越の中に、入っていった。
丁度、「父の日」フェアが催されていた。
彼女は、二階のメンズフロアへ上がっていった。
熱心に、ネクタイを見ている彼女に、悦司は、偶然を装って声を掛けた。
「プレゼントですか?」
彼女は、最初驚いたように、悦司を見たが、
「父にプレゼントしようと思って。」
と、言いながら、
「でも、何をプレゼントしていいのか、わからなくて。」
と、困ったように、呟いた。
「わたしは、男の人じゃないから、どんなネクタイが男の人の好みなのか、わからないんです。」
悦司は、
「僕でよければ、お手伝いします。」
と、言いながら、
「幾つくらいですか?お父様は?」
と、さりげなく訊ねた。
「四十九歳なんです。」
悦司は、父の服装を思い浮かべた。
昔父親がしていたような、ネクタイがいいかな。
悦司の眼が、一本のネクタイに留まった。
「あれなんかどうでしょう?」
彼女は、悩みから解放された小鳥のように、微笑んだ。
「そうですね。あれはいいかも。」
彼女は、店員にそのネクタイを指示すると、ネクタイを買って、その売り場を離れた。
―つづく―
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