第2話 接近


佐川悦司は、毎日、見ているだけの日々に、物足りなさを感じるようになった。

彼女を送り届けた家の前に、しばらく佇んでいたりして、

彼女がまた家から出て来るのを、ひたすらに待っていた。


彼女が出て来ると、悦司は、彼女の後を尾けはじめた。

彼女は、近所のバス停まで歩くと、バス停でバスを待った。

悦司は、それとなく近づいて、彼女の後方に立った。


まだ気づかないんだな。


悦司は、そのことを、物足りなく思ったり、面白く思ったりした。

バスが来て、彼女が乗り込むと、その後から、悦司も乗り込んだ。


席に座った彼女の、すぐ横に立つ。

バスの振動が、心地良い気分を誘った。


彼女は、携帯スマホを見ていた。


可愛らしい画面。

それを、彼女の細い可憐な指先が、くるくると動くのを、

悦司は、上から見下ろしていた。


銀座三丁目。


彼女は、「降ります。」と、悦司に声を掛けた。

悦司は、道を譲りながら、気付かれぬように、彼女の後ろを尾けていった。



―つづく―

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