長編小説「烈愛(レツアイ)」

棗りかこ

第1話 出遭い


佐川悦司は、R市市会議員の息子だった。


バレエ教室の外を偶然通りがかった悦司は、バレリーナたちの中に、自分の理想の女性をみつけた。

栗色の髪の、まとめ髪の二十歳くらいの女性だった。

すらりと伸びた手足が、ポーズを取る度に、綺麗な孤を描く。

その姿を見ていたくて、悦司のバレエ教室通いが始まった。


毎日、彼女がレッスンを終えて出てくるのを、ドキドキしながら待つ。

まるで初恋のように、甘酸っぱい想いが、胸を熱く焦がした。


彼女は、まだ僕に気付かない…。

悦司は、そのことを、時折、狂おしく思ったり、よろこばしく思ったり、密やかな自分の恋に酔いしれていた。


彼女の後を尾けていると、彼女を一人占めしているような、愉悦感に浸ることができた。

「設楽(シタラ)」

その表札の家まで、届くと、彼女は、門を開けて、家の中へと入る。

それを見届けるのが、悦司の日課になっていた。


―つづく―

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