第九九二回 遭遇なる、双子と模型。


 ――この子にとっては未知で、初めてお目にかかる、僕と梨花りかが横並びなところ。



 そらちゃんは困惑という表現が近いような顔になった。それでもって僕ではなく梨花がお先に「どお? 変装でも何でもなく正真正銘の双子なんだよ、僕たち」と言ったの。


 目を見開く空ちゃん。


「本当にソックリなんだ。何のトリックもなしに、ここまでの再現性」


 どうやら、初めて双子と遭遇したような感じ。僕らのような一卵性双生児と……


「ウメチカ読んでたけど、変装を上回るような再現性。……これじゃ敵わないよ、陸君りっくんの変装も。やっぱすごいや、ウメチカさん。それに、あの……」と空ちゃんは見る。僕の隣にいる梨花のこと。さっき拳骨した人が僕ではないことを知ったから。


「梨花だよ、星野ほしの梨花。因みに僕の方がお姉さん。そして、君のお姉ちゃんのお友達」


 と、少し屈んで空ちゃんと目線を合わせる梨花。すると空ちゃんは、


「あれれ? ウメチカさんはお友達じゃないの? お姉ちゃんと……」


 と、怪訝な顔をして言うものだから、かいは作り笑いバレバレの顔で、


「あ、それはね、ちょっと喧嘩……」と言いかけたところ、彼女の口を押さえて僕は、


「お友達だよ、もちろん。大の仲良しだから、ねっ」と、懸命なるアイコンタクトで、その場をやり過ごすも……「千佳ちか、これで成立だね。僕らはずっと同じ。何も変わらず」


 梨花は言い放つ。あの臨海学校で起こったこと。僕が思っていることを察した上で。


「梨花……」「それ以上はなしだよ、千佳。もう解決してるんだから」


 するとそこへ、


「おっ、ここにいたのか、千佳も梨花お姉も」と言いながら、太郎たろう君が『バーン!』と字幕と共に、効果音も引き連れたようなイメージで登場した。可奈かなせつも一緒になって。


「あ、太郎君、試合は?」


「もう終わった。勝ち進んだよ。それにしても何だな、強敵ばかりだな。千佳と同じように俺も一か八かだったな。この勝利だって、殆ど運が良かったに近かったからな……」


「わわっ、ごめん。もうそんな時間になってたのね」


 ……察しの通り、僕は見逃した。太郎君の試合……


「別に怒ってないよ。今の千佳には、その子に付き合うことが大切と思うから。ファンを大切に。千佳が学校の先生になった時、今みたいなことは、きっと沢山あると思うから」


 ――だから、気にするな。


 響く君の声。その部分は未来へ繋がるようにと。



「さあ、帰ろっ」と、声高らかに摂の声。それに便乗し、


「ウェルカムだよ、空ちゃん」と、梨花の声も高らかに、この夕映えに掲げられた。


 帰路と、その中に溢れる冒険心。


 傍から見てもわかる、空ちゃんのワクワク感。可奈に匹敵するような、先程みたいなマシンガントークになると思いきや、今度は何故か大人しい? いやいや、ずっと笑みで、


「空、明日も行こうね、ウメチカ戦」


 と声を掛ける海に対しても、崩れることのない笑み……もう満面な笑顔になって、


「お姉ちゃんたちの作品もあるんだったね。梨花さんと一緒に作ったバンプラ。やっぱり実物のウメチカ戦はスゲーや。それから百貨店でやってるイベントも行こーね」と言うから僕は訊く。海に「何があるの? 百貨店で」と。そこはまだ、僕の知らない世界。


「鉄道模型の大会。毎年恒例でやってるみたいなんだけど」


 と、海が答えた途端、空ちゃんは僕の両手を握って、ブンブンと振りもって、


「ウメチカさんも行こー行こー。明日の試合が終わってから」と、まるでチークダンス。


「うん、試合が終わってからね。ありがとね、誘ってくれて。知らなかったから、とても楽しみだな」と、きっと僕もワクワク感が溢れていたと思う。空ちゃんの反応を見ると。



 そして夜空に一番星が輝く頃、もう最高潮となっていたの。


 空ちゃんの喜々となる声。そして見せてくれた。リュックの中身……晴れ渡る青空のような色をしたリュックを形見離さず持っていたから、余程に大切なもの。それは……


 一眼レフのカメラもそうだけど、写真の数々。撮り鉄と言っていたから電車メインと思われたのだけど、駅の写真が多かったの。北陸本線の駅たち……と、彼女は言っていた。


 僕のお部屋で一緒に、走るゼロ系を眺めながら、いつしか空ちゃんは、スヤスヤと寝息を立てて……って、ちょっとちょっと、と思いながらも、彼女はお泊りとなっていった。



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