第一三八章 そして跳べ! 千佳が邁進するために。

第九五一回 千佳、行きまーす!


 ――と、お空を駆けるのではなく、僕は大地を駆ける。今は早朝の風を感じて。



 駆け出したくなる月曜日。……と思いきや、早速の雨。


 でもその先には、夏の扉。この梅雨の向こうに鼓動を感じる。今しかできない、大切な時。僕はもう、やりたいこと最優先。何故なら、これまでのすべてが繋がっているから。


 それは宿命。そして運命。良いも悪いも全部に意味があったと気付く今この時。


 パパとお母さんが初めから結ばれていたのなら、誕生したばかりの僕と梨花りかは、離れ離れになることもなかったのしれないけど、……それ自体がもう、運命とも言えた。


 そのお陰なのかもしれない。家族の大切さ、子供を好きになれたことも。


 そして、いじめに遭って……どん底の日々を経験して、今なら、僕はそのことをも糧となっていった。同じことで悩める子たちを救っていける。いつの日か瑞希みずき先生が、僕にそうしてくれたように。その痛みを知る者として、どちら側も救護したいの。


 でも自身を、過信しているわけではなく……


 旧一もとかずおじちゃんに対する、僕の誓いなのだから。一度も口にはしていなかったけど、今ならわかるの。僕のやりたいことは真っ直ぐに、それに向かって加速しているの。


 そして僕は訪れた。再びこの警備員室というのか、宿直室とも解釈できる場所。


 あの稲妻の日に、雨宿りとして太郎たろう君と入ったこの場所に……

 そこにいたのは、


 ……何と、太郎君だった。「どうして、ここに?」と、僕は思わず問う。


 その言葉、その問い自体にあまり意味はないけど、太郎君は少し俯いて、


「この間の続き……」と言ったのだ。そして僕は駆け巡る、いくつかの思考を脳内で。


 でも、あれは僕が、太郎君を誘ったから……って、何? 何? 何? 見せたのだ、僕に……資料? 何かの問題集? そしてにこやかに、太郎君は穏やかなトーンで、


「俺も一緒だ。将来の職業は違うかもしれないけど、大学は同じだ。ほら、千佳ちかの目指してる大学はな、俺の志望校だから、目指すは一緒だ」と、ポンと僕の肩を叩いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る