第九四九回 セピア。


 ――想い出は、セピア色の雨模様。



 ふと窓から見た中庭。緑の薫りがほんのりと。秋と呼ぶには、まだ夏の雨のよう。


 久しぶりとなる授業。……僕にとっては、久しぶりな授業だ。


 時は中等部時代。時は想い出という形で遡っているから、見える色はセピア。昔の写真にあったあんな感じのイメージ。僕の、印象に残った風景を、この様に再現しているの。


 夢のように思えた、雰囲気。


 ネガティブではなくポジティブな、周りの環境に釣られて、いつしか……


 輪に溶け込める程のパワーが、このクラスにはあった。授業が終わって休み時間も、僕と一緒にいてくれる子がいた。僕は人とペースがズレているから……と、もしかしたら自らボッチになっていたのかもしれない。そう思ってもいいんだね、といつしか、僕は自身の存在に、自信を持てるようになっていた。或いは芽生えていた。


 梨花りかが一緒にいてくれた。可奈かなも。この二人がいつも一緒にいてくれた。


 まだ梨花が、僕の双子の姉と知る前から。そして可奈が、僕と梨花の親戚の子と知る前から。梨花も、また同じだったそうだ。喩え……僕ら三人が血縁で繋がっていることを知らなかったとしても、僕ら三人は深いお友達になっていたと思える。そう確信できるの。


 思えば導いてくれたのかも?


 この二人の出会いがなかったら、僕は出会えなかったの。この学園にも、梨花が憧れている瑞希みずき先生にも。そして瑞希先生は、僕ら三人の担任の先生だった。僕がこの学園に編入して、初めての担任の先生。僕が持っている学校のイメージに革命を起こした人だ。


 瑞希先生の授業。楽しかった。授業時間は五十分の内容だけれど、ちゃんとした起承転結。そして過去を知ると……共通点が重なる。左手首の傷も、いじめを経験したことも共通点だった。強くなるため℮スポで磨き上げたことも、辿れば同じ動機だったの……


 だから、僕にとっても憧れ。その時からだった。種は植えられたから。


 僕は瑞希先生に魅力を感じたから。瑞希先生のような先生になりたいと心動いたの。



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